「赤字ベンチャー」に高値がつく本当の理由 「ユニコーン乱立」時代の「見えない」資本論

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旧来の資本主義観では「そこまでするか」と思われるだろうが、これはこれで企業の優位性の獲得・維持・強化に役立っているとすれば、理にかなっていると見ることもできるだろう。

また、このことは、投資家目線でより顕著になるかもしれない。銀行(デットの出し手)、証券会社(デットとエクイティーの引き受け手)、ベンチャー投資家(未上場エクイティーの出し手)の違いとして興味深い分析が本書で展開されているが、とくに経営のプロであれば、経営戦略と合わせて見ることにより立体的に現在の資本主義経済の特徴を把握できるだろう。

企業が無形資産への投資の重要性に気づき、その巧拙が企業の価値と将来の行く末を決めるとすれば、私たち個人はどう振る舞うのが得策だろうか。

まずは、自身の人的資本の拡充が不可欠だという認識と、必然的に増大する不確実性に対処する意思が重要だろう。

有形の資産の場合とは違い、無形資産は不確実性から逃れにくい。これは人的資本についても言える。自分への投資と思って身に付けたスキルは、もしかしたら時代遅れとなり、負のレガシーとして成功の邪魔をしてしまうかもしれない。

本書のなかでも少し言及があるが、それを避けるためには、自身が勉強してアップデートし続けることが必要となる。学ぶ内容そのもの以上に、アップデートし続ける意思と自身にとってピンとくる学び方を持っていることのほうが、不確実性の中を走り抜いていくための秘訣になるのではないかと思う。

例えば学生時代には、効率的に点数を取るための勉強をするよりは、本を読む習慣を身に付けるほうが、人的資本を増大させるという観点からは有益かもしれない、という意見と似ているかもしれない。

企業の採用担当者であれば、スキルの有無はもちろんだが、新しいことを自ら学び続ける意欲、シナジーを生み出すネットワーク構築に不可欠なオープンマインドを持っているか、といった資質のほうが、無形資本主義時代においてはより注目するようになるかもしれない。

新しい時代の感性を重視する企業群に対しては、その辺りをアピールしてみるのは1つのよい方策だろうと思う。

“新しい”資本主義の到来

資本主義はたった200年ほどで、それ以前に世界中で作り出された富をはるかに超えるものを生み出したと言われる。

その資本主義が、今や大きく変質しようとしている。1990年代からそれは意識され(“ニューエコノミー”など)、今や赤字のベンチャー企業にも巨額のプライス(ユニコーン=1,000,000,000ドル)がつけられるに至っている。

ただこのことは、もはや“虚妄”とは言えないのではないか。本書で著者たちはそう主張をしたいようである。

私は彼らの主張には説得力があると思っている。また、経済学者が読んでも(計測方法などは読み応えがある)、経営者が読んでも(孫正義氏の経営戦略が深く理解できるかもしれない)、個人のキャリア戦略を考えるうえでも(“自分への投資”とは何かをきちんと考えられるようになる)、多くの示唆がある本書は、熟読したならば読者にリッチな「無形の資本」を授けてくれるかもしれない。

佐々木 一寿 経済評論家、作家

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ささき かずとし / Kazutoshi Sasaki

横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業、大手メディアグループの経済系・報道系記者・編集者、ビジネス・スクール研究員/出版局編集委員、民間企業研究所にて経済学、経営学、社会学、心理学、行動科学の研究に従事。著書に『経済学的にありえない。』(日本経済新聞出版社刊)などがある。

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