「赤字ベンチャー」に高値がつく本当の理由 「ユニコーン乱立」時代の「見えない」資本論

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著者の分析によれば、無形資産には有形資産にない特徴があるという。「スケーラビリティ」「サンク性」「スピルオーバー」「シナジー」で、これを「無形資産の4S」と名付けている。

「スケーラビリティ」とは、規模を容易に拡大させられる性質で、コカコーラのレシピやビートルズの楽曲、マイクロソフトのソフトウェアといったものをイメージするとわかりやすいだろう。

「サンク性」は、掛けた費用がモノとして残らないことを指す。企業研修やブランディングのためのプロモーションなどがこれに当てはまる。

「スピルオーバー」は、波及効果のことで、知財の模倣可能性だとここでは考えてほしい。

例えばiPhoneが登場したときに、他社からスマートフォン端末やAndroid OSが登場したことが例としてわかりやすいだろう(ちなみに経済学での用語とニュアンスが少し違うところもあるので、経済学をすでに学んでいる人は逆に注意が必要だ)。

「シナジー」は、アイデアなどの無形資産と有形資産の相乗効果、またアイデア同士の組み合わせやすさとそれによるイノベーションを想定しているようだ。

アップルコンピュータがiPodを作り、楽曲のデジタルファイルの販売に乗り出し、そのプラットフォームでいろいろなビジネスを展開するようになり社名もアップルに改称したことなどは好例だろう。

そして、これらの性質こそが、“新しい”資本主義経済の方向を決定づけることになるという。

無形資産の性質こそが企業の戦略を決める

無形資産が幅を利かせる現在の資本主義は、企業の戦略を激変させることにつながる。それによって、重要視される人材観も変わるとすれば、個人のキャリア戦略にとっても大きな影響を与えるだろう。

著者たちが指摘しているのは、有形資産に比べて無形資産への投資が大きな「オプション価値」(≒選択肢と新たな価値の複合体)を作るものの、「不確実性」(見通しにくさ)にあふれていて、「紛争性」(線引きの難しさ)を内包している、ということだ。

価値の大半を決める無形資産の形成のために投資をすることの重要性は今や自明だとしても、何が正解となるかの判断はかなり難しい、ということを示している。

GAFAは今や小さな国家よりも巨大な存在だが、何が奏功しているかは著名な研究者であればこそ分析の後解釈の可能性を認めるだろう。

運やタイミング次第のところも多分にあると本書の著者たちも指摘しているとおり、不確実性は本来的に厄介であり、無形でかつスピルオーバーが著しい資産はどうしても紛争性を抱え込む。

それを回避しようにも、シナジーの大きいオープンイノベーション的な戦略とアイデア・知識の自社囲い込みはトレードオフ(背反)してしまいやすい。

そのようなことに自覚的な巨大企業は、必ずしも自社では使わないかもしれない特許を訴訟予防のために大量に取得したり、場合によっては企業を丸ごと買う。また、優れたAI研究開発者を得るために会社ごと買収をしたりする。

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