清家篤・慶應義塾塾長--危難の時代に大学はどう生き残るか
福沢は今とは違う意味で、非常に大きな変化の時代、封建の江戸時代から明治維新を経て、近代社会の明治時代を生きた。彼が自分の頭で物を考えなきゃいけない、と考えた際に頼りにしたのが実学だ。実学とは実際の役に立つ学問と理解されやすいが、福沢の実学はサイエンス、実体のある学問だ。自然科学なら実験により、社会科学なら統計などにより、人文科学であっても文献調査などによって検証できる実証科学だ。
問題を発見し、仮説を作り、それを検証し、最終的に結論を導いて解決をする。そういう力を身に付けるには、幅広くきめ細かい教養教育や、卒業論文、卒業研究をしっかりやり遂げる研究教育が必要だ。
それらの中にはすぐに役立つ、即効性がある技能や知識もあるが、同時に、学んだ技能や知識が陳腐化しても、自分の頭で物を考える能力というのはいつまでも残る。むしろ新しい状況が出てくるほど、そういう人間は強い部分がある。
つまり、教育を通じて、自分の頭で物を考えられる人を社会に送り出していくことが慶應の使命であり、それこそが、実学の精神を現代に具現化することだと思っている。
せいけ・あつし
1954年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。商学博士。92年慶應義塾大学商学部教授。専門は労働経済学。今年5月から現職。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら