中国で1億人が加入した、「P2P保険」の革命度 保険料は後払い、新型保険がついに日本登場

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ただ、設立からわずか3年目のスタートアップ企業であるジャストインケースはアリババほどの規模も知名度もない。スマホ向けの修理保険や1日単位で加入できるレジャー保険を開発するなど、高い商品設計力とシステム開発力があっても、販売を自社単独で行うには限界がある。

幸いなことに、多くの生損保や保険代理店、銀行、商社などが同社の可能性に着目し、その中から約10社程度が同社の代理店としてわりかん保険を取り扱うという。具体的な企業名は非公表だが、大手生保・損保に加えて、大手乗合代理店などが提携企業として名を連ねる可能性はある。

同社は2019年12月に今後の人材採用や新規事業拡大を目的に、第三者割当増資で約10億円を調達した。伊藤忠商事やディー・エヌ・エーに加えて、SBIグループや新生銀行グループのVC(ベンチャーキャピタル)などが新たに株主となった。既存株主にはLINEグループのVCもあり、今後こうした企業などが販売代理店となる可能性も浮上している。

早ければ2020年1月中に発売

日本ではP2P保険販売の前例がなく、ジャストインケースは2019年7月に、新しい技術やビジネスモデル促進を狙いとして政府が制定した規制のサンドボックス制度の対象事業の認定を受けた。わりかん保険の発売は早ければ2020年1月中となる予定で、契約件数や保険金の支払い状況などを金融庁に毎月報告することになっている。

金融庁からはP2P保険自体に違法性はないとの確認はとれているが、大きな特徴である「保険料を事後的に徴収する保険スキーム」の前例がないことから、サンドボックス制度を活用して新たな仕組みを検証していくことになった。保険金の不正請求などモラルリスクを誘発しないスキームであるかも着眼点になっており、とくに問題がなければ継続して販売できる予定だ。

中国では爆発的に広がるP2P保険だが、日本で普及するのか不透明な部分も大きい。中国とは保険を取り巻く環境が異なるからだ。

中国の保険事情に詳しいニッセイ基礎研究所の片山ゆき准主任研究員は、「中国にも公的医療保険制度はあるが、そもそも保険料未払いの人が多いうえ、民間の生保商品の保険料は高く、無保険状態の人も少なくない」と説明する。国民皆保険制度が浸透し、民間生保の世帯加入率は9割前後、がん保険の世帯加入率も6割に達する日本とは大違いだ。

中国で急速に進むデジタル化もP2P保険拡大の背景にある。「日常的にキャッシュレス決済など、デジタル技術の活用に慣れている国民であり、P2Pの新しい募集スキームなども受け入れやすかったのではないか」(片山氏)。アリババグループの決済インフラであるアリペイ(支付宝)の利用者は約7億人に達し、相互宝の申し込み手続きから保険料決済、給付金の受け取りに至るまで、アリババグループ内のネットサービスで完結できる。しかし、日本ではそこまでデジタルインフラは普及していない。

ただ、ジャストインケースの畑社長は「まずはP2Pという新しい保険のカテゴリーが日本に存在することを知ってもらうことが第一。そのうえで、生損保各社や共済、少額短期保険業者、代理店など保険業界の協力を得ながら、普及拡大していきたい」と慎重な姿勢を見せる。

少子化や低金利、自然災害の多発や自動車保険市場の縮小懸念など、生損保各社を取り巻く経営環境はかつてないほど厳しい。既存の販売チャネルや商品にこだわらず、P2P保険の可能性に着目する生損保は少なくない。
「わりかん保険が顧客に浸透していくには時間がかかるだろうが、発売から1年で1万件の契約も獲得できないようでは大失敗と思っている」。畑社長が言うように、日本でP2P保険が受け入れられるのか。その成否は今年中にははっきりしそうだ。

高見 和也 東洋経済 記者

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たかみ かずや / Kazuya Takami

大阪府出身。週刊東洋経済編集部を経て現職。2019~20年「週刊東洋経済別冊 生保・損保特集号」編集長。

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