「家族と格差」描く映画が世界で注目される理由 カンヌ受賞「万引き家族」「パラサイト」が象徴

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一方、ポン監督に『パラサイト 半地下の家族』と『万引き家族』との共通点について尋ねると、次のように答えた。

韓国で行われた対談企画の合間に取材に応じたポン・ジュノ監督(左)と、是枝裕和監督(右) (筆者撮影)

ポン・ジュノ監督「『万引き家族』で描かれているのは、それぞれの家族や人物にすごくこまやかな事情があるということ。観客はストーリーを追いながら、それぞれがどんな事情を抱えているかをだんだんと知るようになるが、映画の中で描かれる“社会”はそれを知らない。各々が抱える事情を圧縮して捉えている。

例えば『万引き家族』の中の警察官らは、彼らがどうしてこんなことになったかを表面的にしか理解していないし、その実を認めようとはしない。これは『パラサイト 半地下の家族』でも同じことが描かれていると言えます。

最後にとある事件が起こりますが、そこに至るまでの経緯は非常に複雑な脈絡やレイヤーがあって、2時間それを追ってきた観客だけが知っているわけです。だから現実に私たちが目にする新聞記事も、掘り下げてみると『万引き家族』や『パラサイト 半地下の家族』のように、私たちには知りうることのできない長い物語や、さまざまな物語があるということが言えます。そこが共通点だと思いました」

私たちが知りえないさまざまな“物語”がある

それに対して「そのとおりだ」と笑った是枝監督は、以下のとおりに返した。

是枝監督「そういう意味では2人ともジャーナリスティックなところがある。ただ、作家の資質だから仕方ないけど、ポンさんのほうが描き方は軽やかだし、陰と陽でいくと、俺のほうは“陰”で、ポンさんは“陽”なんだと思う。どこか滑稽さが残るところがすばらしい。

僕も『万引き家族』で、久しぶりに交わった夫婦が背中を舐めているときに子どもが帰ってきてしまうというシーンを撮ったけど、『パラサイト 半地下の家族』の中にも、コントみたいな夫婦のシーンがある。あのコントみたいな展開を、この作品世界の中に同居させるのは、本当はなかなか難しい。監督としては怖いからね。それがやっぱりすごいなと思います」

『万引き家族』『パラサイト 半地下の家族』とアジア作品が2年連続でカンヌ国際映画祭のパルムドールを獲得したが、くしくも根底に流れるテーマは共通している。その視点を踏まえて、作家性の違いを意識しながら両作品を見比べてみるのも面白いだろう。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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