「暴れん坊サウジ」と「ギリギリイラン」の行く末 2020年、大荒れの中東情勢はどうなるか

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

11月のデモによる死者は、明確な当局発表がない中で、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが300人以上と発表したほか、アメリカ国務省のフック・イラン担当特別代表は12月5日の記者会見で、1000人以上が殺害された可能性があるとした。

ツイッターなどには、デモに絡んでイラン地方部の街頭に戦車が展開する映像も出回った。映像などによると、デモ参加者は失業など生活難にあるとみられる30歳以下の若者が中心。反イスラム的として、女性の装いや音楽の種類、飲酒など市民生活に介入するイスラム体制を窮屈と感じる国民は増えており、とくに若年層を中心にイスラム体制への反発が強まっているようだ。

あるイラン人識者は「イスラム体制は時代にそぐわなくなっており、長期的に見れば、崩壊するだろう。経済的な不満がイスラム体制そのものへの不満に転じかねず、その時期が早まる可能性がある」と解説する。

ネット監視で体制対国民の闘争激化

もっとも、イラン国民の体制に対する不満は高まっているが、体制が揺らぐような大規模な騒乱に発展するかどうかは未知数だ。

11月のデモでは、非武装のデモ参加者に無差別発砲した事例も報告されており、体制側は力でデモや国民の不満を封じ込めた。2009年に行われた大統領選の不正疑惑に端を発した抗議デモでは、アメリカメディアによると、約10カ月で72人が死亡したのに対し、11月のデモでは1週間前後で死者の数は数百人にも上った可能性がある。

前出のイラン人識者は「中東など世界各地で反体制デモが行われる中で、イランでも体制の暴力に対する恐怖心がなくなりつつあった。体制側は圧倒的な暴力を行使することで、この恐怖心を再び高めようとしている」と読む。ネットに対する監視も行われているのに加え、数日間にわたってネットを遮断するという強硬手段により、体制側は、国民がデモの開催で連携できないよう万全の策を取った。

イラン以外でも、サウジやエジプトなどではますますネットへの監視が強化されている。サウジの関係者が証言したところによると、あるサウジ人が改革開放の進むサウジ社会で目立つ若者らの逸脱行為――伝統的な衣装をまくって踊ったり、スカーフをぬいだり――をする動画サイトの映像を複数送ったところ、フェイスブックやツイッターなどのアカウントが突然利用できなくなったという。

エジプトでもフェイスブックの投稿で当局に拘束される例が相次いでおり、中東でのネット空間の規制は強まるばかりだ。

デモの激化が経済を悪化させるという悪循環も生じている。中東のニュースサイト、アル・モニターによると、デモが続くレバノンでは経済活動にも深刻な影響が出ており、2019年10月17日にデモが始まって以降、10%の企業が操業を停止したり、一部停止したりした。この結果、16万人以上が解雇されるなどして職を失った。

世界銀行の集計では、貧困水準にあるのは国民の30%に上っており、通貨価値のさらなる下落によっては国民の半数が貧困水準に陥る可能性があるという。レバノン政府も債務不履行(デフォルト)懸念が生じており、外部勢力の介入に翻弄されてきたレバノンの悪しき歴史が繰り返される恐れもある。

池滝 和秀 ジャーナリスト、中東料理研究家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いけたき かずひで / Kazuhide Iketaki

時事通信社入社。外信部、エルサレム特派員として第2次インティファーダ(パレスチナ民衆蜂起)やイラク戦争を取材、カイロ特派員として民衆蜂起「アラブの春」で混乱する中東各国を回ったほか、シリア内戦の現場にも入った。外信部デスクを経て退社後、エジプトにアラビア語留学。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院修士課程(中東政治専攻)修了。中東や欧州、アフリカなどに出張、旅行した際に各地で食べ歩く。現在は外国通信社日本語サイトの編集に従事している。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事