「暴れん坊サウジ」と「ギリギリイラン」の行く末 2020年、大荒れの中東情勢はどうなるか

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イランとサウジアラビアの対立でも、2019年に軍事的な緊張が高まったものの、直接的な衝突は引き続き回避される可能性が高いと考える。2019年9月には、サウジの石油関連施設が大規模攻撃を受け、サウジの石油生産能力の約半分が一時的に停止した。

イランの支援を受けるイエメンのイスラム教シーア派系フーシ派が犯行声明を出したのに対し、サウジやアメリカはイランが関与したとの見方を示した。ところが、アメリカはイランとの対決に踏み込まず、アメリカに頼れないと判断したサウジは、親中国の外交路線への傾斜を一段と強めている。

イランとの関係悪化望んでいない

アメリカに頼れないサウジは、単独では対イランの軍事行動を取る能力はない。軍事力で上回るイランに対して下手に報復に打って出れば、経済制裁で追い詰められて失うものが少ないイランの大規模攻撃を招きかねない。

サウジは、脱石油の経済・社会の包括的な改革プラン「ビジョン2030」を推進しており、海外からの投資を呼び込む観点からも地政学的な緊張を高めたくない事情がある。加えて、増税や水道光熱費の値上げが続いており、「国民の負担感は増している」(現地在住者)。改革を進めなければならない国内的な事情もあり、イランとの緊張の激化や軍事衝突は望んでいないのが実情だ。

一方、経済制裁によって困窮するイランではロウハニ師が大統領として2019年12月、ハタミ氏以来約19年ぶりに日本を訪問。国際的な孤立が深まる中で、安倍晋三首相と会談し、イランともアメリカとも親しい日本の外交力への期待をにじませた。ロウハニ師は、石油の国際的な輸送路が脅かされた中東の安全を守るための自衛隊派遣計画に理解を示し、日本との友好関係堅持に努めた。

訪日の背景には、経済制裁によって自国民の不満が高まり、事態の打開を図らなければ、体制動揺につながりかねないという窮状がある。11月のデモは、ガソリン価格の値上げに端を発したものだったが、単に経済的な要求にとどまらず、体制への不満も叫ばれたことが注目された。

イラン革命体制の主要な支持層である宗教心の篤い低所得者層の間でも、デモに参加する動きが相次いだことは、イラン指導部にとっては衝撃的だったと言える。イランでは、2009年の大統領選で、改革派のムサビ元首相を中間層以上の国民が支持した。大統領選の結果発表を受けて不正疑惑が浮上し、若者ら改革派を中心とした市民が街頭に繰り出した。低所得者層は、イスラム体制の支持層として、国際的な孤立が深まる中でも体制の安定化装置として機能してきた面がある。 

だが、補助金削減やガソリンの値上げは、諸物価の高騰という形で庶民の生活を直撃。体制への不満という形で、幅広い層に反体制デモへの参加が広がった。銀行やガソリンスタンドに加え、軍関連施設や警察も襲撃対象となり、経済的な不満だけに焦点を合わせたデモという枠組みには収まらない組織的な抗議行動となった。

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