意外!織田信長の気遣いあふれる手紙の中身 信長に学ぶ相手の心をつかむ文章3ポイント

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こうした文書は、ほかの大名たちも家臣に書いて渡していますが、多くは説明不足でした。例えば、名将・上杉謙信などはその典型でしょう。「毘沙門天がこう言っているから、従え」と書いてはあるものの、もちろん家臣には毘沙門天の具体的な声は聞こえないため、かえって混乱しました。

その点、信長は合理主義者でしたから、部下が理解できるように、わかりやすく説明しました。残りの8カ条を見ても、本社が何を越前支社に求めているか、具体的に説明し、指示を与えています。そのうえでさらに、「もともと、越前にいた地侍たちを粗雑に扱ってはいけない。仲良くし、揉め事があって双方が納得のいく形で解決しないときには相談すべし」といった助言まで示していました。

こまやかな気くばりが伝わってくる一節

ユニークなのは、「鷹狩りをするな」と伝えている一節です。「娯楽とはいえ、度を過ぎるな」と、信長は注意していました。実にこまやかな気くばりが伝わってきます。

『心をつかむ文章は日本史に学べ』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

具体的な指示を出す一方で、信長らしいのは「安直なイエスマンでは困る」、と釘を刺しているところです。何事も命令に従わなければいけない、とは言いますが、「無理非法だと思ったことは、表面だけ取り繕って、従うまねをしてはいけない」とも述べています。そして、家臣が信長に意見をしてきたら、「理にかなっているならば聞き届ける」とまで断言しているのです。

国を預けた以上、「指示待ち人間」では信長も困ります。時は戦国の世。緊急事態がいつ起きても不思議ではありませんでした。その際、いちいち自分の指示を仰いでいては間に合いません。この文書で信長は、家臣にやるべきことを明確に伝えながら、一方で、「しっかり自分の頭で考えて、おかしいと思えば反論してきてほしい」と伝えることで、家臣たちの成長を促したのです。

現場のリーダーや経営者は、この信長の文書から学ぶべき点は多いでしょう。武田信玄が定めた分国法(領国内を治めるために制定した法令)として有名な「甲州法度之次第(こうしゅうはっとのしだい)」で、信玄は最後の部分に、「私が至らなかったら、身分にかかわらず申し出るべきこと」とあえて書き添えています。できる上司は皆、同じなのかもしれませんね。

加来 耕三 歴史家、作家

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かく こうぞう / Kozo Kaku

歴史家・作家。1958年大阪市生まれ。奈良大学文学部史学科卒業後、同大学文学部研究員を経て、現在は大学・企業の講師をつとめながら、独自の史観にもとづく著作活動を行っている。『歴史研究』編集委員。内外情勢調査会講師。中小企業大学校講師。政経懇話会講師。主な著書に『日本史に学ぶ一流の気くばり』『心をつかむ文章は日本史に学べ』(以上、クロスメディア・パブリッシング)、『「気」の使い方』(さくら舎)、『歴史の失敗学』(日経BP)、『紙幣の日本史』(KADOKAWA)、『刀の日本史』(講談社現代新書)などのほか、テレビ・ラジオの番組の監修・出演も多数。

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