日本企業の信用力指標は大幅に悪化、景気悪化の影響が鮮明に《スタンダード&プアーズの業界展望》
業種別の傾向をみると、償却前営業利益率と投下資本利益率でみた収益性指標の悪化が顕著だったのは、1)原材料や燃料などのコスト変動を価格転嫁や合理化効果で吸収できなかった素材関連業種(化学、石油精製・販売、ガラス・セメント、鉄鋼など)、2)世界的な消費の落ち込みと急激な円高に見舞われた製造業種(エレクトロニクス・電気機器、自動車、自動車部品など)である。とりわけ、エレクトロニクス・電気機器、自動車、自動車部品といった業種は、近年の収益性指標が良好な水準で安定していただけに、2008年度の落ち込みが急激であった。一般に景気変動の影響を受けにくい通信業のような一部の例外を除くと、世界的な景気悪化の影響は非製造業を含む広範な業種に波及している。食品・飲料、小売り、不動産、メディアなどは、2008年度の収益性指標の悪化は相対的に小幅だが、2009年度の業績見通しはおおむね厳しい先が多く、景気にやや遅行する形で収益性指標が悪化する可能性が高いとスタンダード&プアーズはみている。
キャッシュフローと有利子負債のバランスは大幅に悪化
信用力分析上、スタンダード&プアーズが重視する指標の1つである、有利子負債に対するFFO(運転資本の増減調整前ベースの営業キャッシュフロー)の比率の中央値は、調査対象企業では前年度の36.6%から22.3%へ、格付け先企業では同40.0%から19.0%へと大幅に悪化した。
総資本有利子負債比率も近年にない悪化を示した。同比率は2006年度まで着実に改善し、2007年度に悪化に転じていたが、2008年度は調査対象企業で前年度の34.7%から41.9%に、格付け対象企業で42.5%から48.2%に上昇し、おおむね2004年度の水準に戻った。悪化の要因として主に考えられるのは、1)有利子負債の継続的な増加と、2)自己資本(純資産)の減少である。
2008年度の有利子負債の増加は、キャッシュフローの落ち込みを補うための負債による資金調達を一部反映している可能性があると、スタンダード&プアーズはみている。また、金融危機の広がりによって、企業の資金調達環境が急激に悪化するなか、2009年3月期末に向けて手元流動性の維持・拡充を図った企業が少なくなかったことも有利子負債の増加に影響していると考えられる。
もう1つの大きな要因は自己資本(純資産)の減少である。2007年度から2008年度にかけて、自己資本(少数株主持ち分を含む)は調査対象企業で173兆6780億円から153兆9170億円に11%減少し、格付け先企業でも98兆8720億円から85兆7050億円まで13%減少した。自己資本の大幅な減少は、総合電機メーカーの間にみられたような営業外費用や特別損失の計上や、繰延税金資産の取り崩し、有価証券評価差や為替換算調整勘定のマイナスなどが大きく影響した結果であるとスタンダード&プアーズは考えている。