「デパス」に患者も医者も頼りまくる皮肉な実態

「薬で解決したい」要望を受け処方も気軽に

再び中野氏の話に戻す。中野氏は精神科領域に明るくない医師のデパス(エチゾラム)の処方を問題としながらも、この状況のダメ押しになっているのが、高齢者を中心に何かにつけて薬で解決したがる患者の姿勢、さらにはデパス(エチゾラム)が睡眠薬として処方されやすかったとしても薬による解決に過度な期待を抱いている問題があると指摘する。

「年齢とともに睡眠は変化し、高齢になればなるほど睡眠が浅くなり、睡眠時間も短くなります。にもかかわらず、高齢で年齢相応の睡眠ではなくて30代のグッスリを求めて『もっと寝たい』と薬を求める人がいます。これそのものが無理な話なのです」

また、中野氏は日本の精神医療の構図が安易な処方を招く一因だとも指摘する。

「日本の精神科医療の場合、非薬物療法があまりにも軽視され、医師の技術料である診療報酬でも十分には評価されていません。また、薬の処方より時間がかかる非薬物療法は患者さんからも受けが悪いのです。結局、医師も素早く診察して薬を出す方が効率が良いし、『5分診療』と批判する患者さん側も手軽な対応を求めてしまっているのです」

最近では、デパス(エチゾラム)をはじめとするベンゾジアゼピン受容体作動薬については長期服用で認知機能の低下が早まるとの研究報告もある。とはいえ、中野氏はデパス(エチゾラム)の服用を続けている、いわば常用量依存の可能性がある人すべてが薬をやめたほうがいいわけではないという。

それはデパス(エチゾラム)依存からの離脱は精神科医が計画的に行っても、患者が苦しい離脱症状を起こし、状況が悪化することもあるからだ。中野氏は問題の難しさをこう語る。

今のままやめないで続けるという苦渋の現実

「長期的にはやめるメリットがありますが、結局、薬を服用し始めた年齢と依存で困っている年齢が離れすぎています。40~50代からスタートして、問題になるのは70~80代に至ってから。その段階では長年服用し続けてきた薬をもう使わない、というのも現実的ではありません。無理に薬をやめると生活の質が低下する人もいます。

今の生活をいかに維持できるかを念頭に患者さんとよく相談して、年齢などにも配慮して、今のままやめないで続ける選択をすることもあるという苦渋の現実があります」

なぜ、依存性のあるデパス(エチゾラム)が長年にわたって広く処方されてきたのか。

薬剤師や医師への取材を通じて、デパス(エチゾラム)がさまざまな意味で「都合のいい」薬であり、そこに、不眠などの悩みを「薬で解決してほしい」という患者側の意識の低さが加わって、いわば「気軽な」処方が行われていったという経緯が見えてきた。

いちど依存に陥ってしまった場合、とくに高齢者にとっては、離脱するのは至難の業だ。さらにやや厳しい見方をすれば、高齢者の場合はその後の期待される寿命も長くない。そこでわざわざデパス(エチゾラム)をやめる意味がどの程度あるかという問題も浮上してくる。

また、30年以上国内の処方薬として存在し、知名度も高いデパス(エチゾラム)のような薬では、一部の医療者が離脱を提案し、処方を控えたとしても、探せばほかに処方してくれる医療者を見つけるのは難しくない。医療者側にとって、時間と手間をかけて離脱を進めてもインセンティブは少なく、むしろほかの医療者へ鞍替えされてしまうリスクもある。

「合法」であるがゆえに支援の手も届きにくく、離脱が進まない――そんな皮肉な実態も見えてきた。

(取材・執筆:村上 和巳/ジャーナリスト、浅井 文和/医学文筆家)

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(第5回に続く)

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