さて、高い建物で気になるのは地震や今日のような強い風による揺れである。このビルには3種類の制震装置が採用されている。
(1)ブレーキダンパー。いわゆる皿バネ。6階から50階までに620基を設置。主に震度5以上の地震による揺れを制御するダンパーだ。
(2)オイルダンパー。車でいうところのショックアブソーバー。2階から35階までに516基を設置。主に風揺れを制御。オフィスではあまり気にならない風揺れも、住居やホテルでは不快に感じることも多いので、このビルのような複合施設では重視される。
(3)座屈拘束ブレース。揺れを吸収する素材で作られた補強材。1階から5階までと51階に82機を設置。震度7級の大地震による座屈を防ぐ。
高所恐怖症ではあるが、そこまで配慮されているならここに住んでもいいかもという気がしてくるから不思議だ。街の完成予想図も緑が豊かでとにかく魅力的なのだ。虎ノ門ヒルズレジデンスは総戸数172戸で、専有面積は44.80平方メートルから239.83平方メートルまで。現在は分譲前である。
コストを抑える「ナックル・ウォール工法」
もうひとつ、高い建物で気になるのは基礎である。建物が高くなればそれだけ基礎もしっかりしていないとならないのだが、これだけ大きな建物の基礎はどれくらいの厚みが必要かというと、「マットスラブなら4~5メートルを必要でしょう」とのこと。マットスラブとはつまり住宅で使われるタイプの基礎である。六本木ヒルズの基礎もこのマットスラブで、5~6メートルほどの厚みがあるという。
厚いということは、それだけ工期が長くなってしまう。つまりコストも上がる。そこで大林組はこの現場で、独自のナックル・ウォール工法を取り入れた。マットスラブの下に節を付けた杭(ナックル)を打ち込み地盤にひっかけることで安定させ、マットスラブを従来より薄くしているのだ。
そのために打った杭の数は237本。最長で40メートルほどで、傾きなどのずれは5ミリ以内だという。それを可能にしたのは東京スカイツリーの建設にも使われた三次元計測システム。たしかにあれも、大林組が施工していた。
この精密さはいかほどか。野球のマウンドからホームベースまでの距離は18.44メートルである。その倍、離れたところから投球すると仮定して、狙ったところから5センチとずれないところにボールを収めるようなものだ。コントロールの良さから精密機械と称された、全盛期の元広島東洋カープの北別府学投手にも難しいのではないか。精密建築は素晴らしいと言わざるを得ない。
精密さが求められるのは、建物が高いからでもあり、また、下を道路が走っているからでもある。杭を打ち込んだらトンネルの天井に穴が空いたなんてことがあったら大変だ。しかも道路はカーブしているので、それに合わせての工事が必要になる。ビルがトンネルに気を使うのと同様に、トンネルもビルに気を使っているに違いない。
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