トランプ大統領の弾劾、公聴会の次はどうなる ニクソン時代とは異なる「社会の2極化」の壁

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公聴会では大統領の介入と外交幹部の組織的な関与が語られた(写真:REUTERS/Yara Nardi)

11月半ばから5日間、下院がトランプ政権の高官・元高官を召喚して実施したウクライナ疑惑をめぐる弾劾公聴会は、連日、トップニュースとして取り上げられ、ピーク時には1300万人ものアメリカ国民がライブ中継を視聴した。注目された公聴会だったが、民主党の期待に反し、大統領弾劾に対するアメリカの世論は微動だにしなかった。議会でもトランプ大統領を守る共和党の強固な防波堤が崩れることはなかった。

公聴会では2016年大統領選へのウクライナの介入疑惑やバイデン親子に関するウクライナ政府の捜査発表を「見返り」として、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領のホワイトハウス公式訪問や対ウクライナ軍事支援の施行をトランプ政権が約束していたことがより明らかとなった。大統領に対する包囲網が狭まったのは確かだが、上院における弾劾裁判で大統領が罷免されることは、いまだに誰も想定していない。民主党がひそかに期待するのが今後上院で実施される弾劾裁判でのゲームチェンジャーとなりうる新証言だ。

党派的な対立を脱却できない弾劾審議

「ハワード・ベーカーはどこだ」。

公聴会の締めくくりにアダム・シフ下院情報特別委員長はこう言った。ニクソン元大統領弾劾の際に、ベーカー元上院ウォーターゲート特別委員会副委員長は、同じ共和党出身ながら、「(ニクソン)大統領は何を知っていて、いつそれを知ったのか」と公聴会に召喚された証言者に繰り返し尋ね、大統領の責任を追及したことで知られる。日本では、ジョージ・W・ブッシュ政権で駐日大使を務めたことで馴染みのある人物だ。シフはニクソン弾劾時に同氏が果たした功績をたたえ、同時に2極化社会の影響を受けて共和党が政治的立場を優先し、国のために事実を追及しない今日の議会を、嘆いたのである。

「われわれは大統領の指示に従った」。ゴードン・ソンドランド駐EU(欧州連合)大使は下院情報特別委員会の公聴会でこのように証言した。ウクライナ工作で大統領は指示を出し、疑惑の中核をなしていたことを同大使は明らかにした。さらには、マイク・ペンス副大統領、マイク・ポンペオ国務長官、そしてミック・マルバニー大統領首席補佐官代行などトランプ政権の外交を仕切る幹部が同疑惑をめぐる政策で一枚岩であったことも暴露した。

大統領の指示に基づき、大統領再選のために政権が組織的にウクライナ政府に圧力をかけていたことが事実として判明している。大統領は自らの利益のために、国益を損なって外国政府の協力を要請していた。仮に司法で裁かれれば大統領は有罪となりうる十分な証拠がそろっていると解釈されてもおかしくない。だが、弾劾・罷免は立法府である議会が判断するため、政治の影響を受ける。これまでの証拠だけでは、現状の社会を反映した議会政治の2極化を打破するほどの弾劾への支持は集められていない。

公聴会に対するアメリカ社会の反応は世論調査の数値にも明確に表れている。ファイブサーティエイトの世論調査平均値では、弾劾への支持は公聴会開始前の49%から公聴会後は46%となり、むしろ公聴会は弾劾への支持を高めるどころか下げてしまった。

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