乗用車保有の考え崩す「完全自動運転」後の世界 土地利用や自動車保険のあり方も変えうる

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自動車を保有する人が減る影響は、以上だけではありません。自動車を保有しなくなれば、駐車場の多くが不要になりかねません。ロボタクシーの普及だけでなく、シェアリングが進めば、同様の変化が生じるでしょう。

現在、都市にある駐車場が激減するわけです。アメリカでは駐車場の海の中に建物があるようなところも多いので、土地利用に大きな影響があるはずです。日本でも駐車場が占めている面積は無視できません。これが必要最小限になれば、地価に対して大きな下落圧力が働きます。

また、都心部のビルなどでは、地下駐車場が大きな比率を占めていますが、ここにも影響するかもしれません。ビルの建築形態とともに、都市の土地利用が変わるシナリオが考えられるのです。

日本では、人口の減少によって土地に対する需要が減少しています。それに加えて駐車場が激減すると土地の供給が増大することになります。これは日本の不動産事情に極めて大きな影響を与えるでしょう。

免許制度は不要に

以上で述べたことは乗用車の利用形態がどうなるか、とくにロボタクシーがどの程度普及するかによって、大きく変わります。

それとは関わりなく、自動運転が可能になれば生じる変化もあります。それが以下で述べるようなものです。

レベル5の完全自動運転が実現すれば、それらは免許証なしで利用できるようになるでしょう。現在でも、タクシーに乗るのに免許証を必要としないことを考えれば、当然のことです。

事実、アメリカ・カリフォルニア州は、「自動運転車のドライバーは運転免許証を携行する必要がない」とする方針を、連邦政府に認可請求しています。免許制度や教習所のあり方も変わってしまいます。

自動車が完全自動運転になれば、交通事故は8割以上減少するといわれます。そうなると、交通警察は縮小を余儀なくされ、警察は、大量の余剰人員を抱えることになりかねません。警察は、自動運転化によって最も大きな影響を受ける分野の一つなのです。

現在の自動車保険は、「自動車が事故を起こす」ことを前提にして構築されています。しかし、交通事故が激減すれば、自動車保険に対する必要性も大きく減るでしょう。

新しい自動車保険は、事故が発生した場合のメーカーなどの責任や、被害者の救済制度と、一体のものとして考えられる必要があります。

完全自動運転車が事故を起こした場合の責任は、自動車会社などが負うことになるでしょう。ただし、責任を負う主体が、プログラムを開発した企業なのか、自動車というハードウェアのメーカーなのかが問題となります。

また、事故の原因が車両側にあるのか、交通システムにあるかによっても、責任を負うべき主体が異なります。こうして、自動車保険の構造も大きく変わるでしょう。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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