「ホール落語」を名のあるシェフが腕を振るう「レストラン」だとすると、「寄席」は、気楽に入るざっかけない「定食屋」ということになろうか。
しかし「寄席」でお客に受けるには、腕がなければならない。ふらっと入る「定食屋」のお客のほうが厳しいのだ。古今亭寿輔は「寄席」をホームグラウンドとして、毎回大きな笑いを取っている。
派手な高座着でまず度肝を抜くが、当の寿輔はやる気がなさそうに、のらりくらりと話し始めるのだ。
「ど派手な衣装を着てから1、2年経って自然と気がついたんですね。あんなちんどん屋みたいな衣装で、ジャンジャジャーン!って出て行ったら、客によっちゃ“こいつ、ほんとのバカじゃねえのか”と思う。
まあ、利口じゃないですけど(笑)、本物のバカだなと。
そうなるとお客は引きますから、ここは『陰陽の理』で、陽の衣装で出ているのだから陰でいこうと。正直、楽なんです、この年になると。小さな声でやるから。
時々マクラでいうんですが“こう見えたってお客さんね、日本に落語家が800人いる中で私はベスト3に入ると思うんです。『芸が』って言いたいんだけどそうじゃない。ごまかすのが!”前座さんなんかあきれてるかもしれませんけど(笑)」。
しかし、脱力して高座に上がるのは、かなり「怖い」ことのようにも思う。
「そうなんです。脱力して高座に上がって、1回すべったら残り14分地獄なんですから。取り返せない。お客さんは離れちゃう。もうクソ度胸ですよ。いわゆるハイリスクハイリターンですから」
客席を沸かせる当意即妙の返し
寿輔の場合、高座に上がってからが勝負。客席に向けて当意即妙の返しで客席を沸かせる。
「昨日までお江戸上野広小路亭に出ていたんですけど、客席の真ん前で、男性がなんかうつむいて袋からモグモグ食べてるんですよね。私は頭下げて10秒ぐらいずっとその人を見てたんです。
で、“何食べてるの? 飴? お菓子。いいなあ”って言ったら、横の人がそのお客に“あなた態度大きいんじゃないの?”って言った。そう返されたらチャンスです。“いえ、この方の席が広小路亭のいちばんいい席なんです。この方の席はグリーン車で、あとはみんな普通車です”って、それで笑いを取る。その場その場が勝負です」
最近は「待ってました」と声がかかることもある。そう言われたからと言って寿輔は張り切ったりはしない。飄々と演じきる。
「たまに言うんですが、“お客さんね、寄席というのは主役は私じゃないんですよ。あなた方が主役なんですよ。私は子どもの壁当ての塀みたいなものです。子どもが塀にボールぶつけるのを跳ね返してるだけのことなんです。だから主役はあなた方。落語家は脳みそいらないの。跳ね返すだけだから”(笑)」
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