落語家というのは「職業」であるとともに「生き方」でもあるとしみじみ思う。
刻苦勉励を旨とし、日々精進に励んでいる落語家もいれば、肩の力を抜いて飄々と生きている落語家もいる。それもまた見事な芸人のありようと言えよう。
坊っちゃんのためだけに落語をやりますからね!
今回紹介する古今亭寿輔との出会いは、強烈なものだった。
池袋演芸場の平日の夜席、六分ほどの入りで、まったりした空気の客席。
「シャボン玉飛んだ」の出囃子に乗って、ちょび髭を生やし、レモンイエローの布地に銀箔を散りばめたド派手な着物で高座に上がった寿輔は、少し客席をいじったあとで「今日のお客様は反応があまりよろしくないなあ、あ、そこの坊っちゃん、笑ってくれた! じゃ、おじさん今日は、坊っちゃんのためだけに落語をやりますからね」と上手の客席の2列目あたりにいた小学生のほうを向いて、落語を始めたのだ。
客席は一瞬戸惑ったのちに、爆笑である。
演目は「猫と金魚」。「のらくろ」で知られる漫画家、田河水泡の作。「舌で描く漫画」とも言うべき笑いの多い噺だ。
軽やかな口調の寿輔は、この噺にぴったりだが、演じながらも「坊っちゃん、聞いてますか?」と時折くすぐりを入れる。小学生は困ったような表情になるが、客席は沸く。
寿輔はそのまま演じきって、大喝采の中降りていった。
紋付羽織で高座に鎮座ましまして、古典落語を滔滔と口演するのも見事な落語家の姿だが、ここまですかして一座のお客を喜ばせるのもまた「芸」の姿だと言えよう。
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