75歳の落語家・古今亭寿輔が紡ぐ「寄席」の躍動 一期一会のライブ感を展開する野心満々の男

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師匠の三代目三遊亭圓右は、五代目古今亭今輔の娘婿で、「今輔」の名跡をあずかっていた。寿輔に襲名の話があったが受けなかった。

「僕は昔から名前はどうでもいいという主義なんです。今輔も圓右も、欲しいなと思ったことはないです」

一門の総帥、桂米丸からも「君が継ぎなさい」と言われたが継がなかった。

「みんな『ありがとうございます』って喜んで継ぐんだ。君何だよ、継ぎたくないとかって」と怒られたが、受け付けなかった。

名跡よりも「一夜の笑い」を大事にするという(編集部撮影)

「一本筋が通っているんですね」と筆者が言うと寿輔は、「かっこよく言うと筋が通ってる。もっとわかりやすく言うとバカですよね。そっちで書いといて」と切り返した。

結局、六代目古今亭今輔の名跡は、寿輔の弟子の錦之輔が襲名した。

弟子の襲名披露の口上で、寿輔は「大師匠古今亭今輔の大名跡を弟子の錦之輔が継ぐことになりまして、自分を追い抜いてしまって面白くないですな」とやって客席を沸かせた。名跡よりも「一夜の笑い」を大事にする、古今亭寿輔の面目躍如というところか。

野心満々の75歳

今日も古今亭寿輔は寄席の高座に上がっている。毎日のように客層が変わる客席で、ごひいきもいれば、寿輔のことを知らないお客もいる。団体客が高座の途中で席を立つような慌ただしい場所で、寿輔は客席をいじり、一期一会の15分の高座で、お客の笑い声を浴びている。

今年75歳だが、一見枯れたように見えて寿輔は野心満々である。

「私の家系ってだいたい長生きなんです。父は90歳で、母親は5、6年前に95歳で身まかりました。そのDNAを受け継いでいるのか、月並みですけども元気な間は落語をやってお客さまに喜んでいただけたらいいなあと思いますね」

(文中敬称略)

■古今亭寿輔(ここんてい・じゅすけ)
1944年5月5日、山梨県甲府市生まれ。
1968年、三代目三遊亭圓右に入門、三遊亭右詩夫を名乗る。
1972年 二つ目に昇進し、師匠の前名の古今亭寿輔を名乗る。
1983年 真打昇進
公益社団法人落語芸術協会 理事
〇出囃子「シャボン玉」
「これを出囃子に使ったのは私がはじめてでしょう。私、どうもひねくてるのか逆をやりたいんですよね。陽気な衣装に陰気な話術、出囃子は哀愁のある曲で」(本人談)
〇持ちネタ 
「杉良太郎の世界」「老人天国」「男はつらいよ」「妻の酒」「川中島の合戦」「尻取り都々逸」「地獄巡り」「薮入り」「お見立て」「小言念仏」「ラーメン屋」「名人への道」「文七元結」「猫と金魚」「ぜんざい公社」「死神」「親子酒」「代書屋」「釣りの酒」「生徒の作文」「自殺狂」など。「50くらいでしょうか?いつでも高座にかけることができるのは10本くらいです。“師匠の噺は毎回変わるから、持ちネタ多いんじゃないの”と言われます」(本人談)
〇公演予定 
浅草演芸ホール 十一月中席(11月11〜20日) 昼の部
広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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