――これまでの佐々部監督の作風と比べると、180度違うハードな作風が印象的でした。資料によると、脚本の青島武さんから「この作品をやったらどうか」と薦められたそうですが。
やったらどうかというよりも、「佐々部のやるような、いい人しか出ない、ほんわかしたのはもういいでしょう」と言われたということです。「自分が脚本を書くのなら、こういうのがやりたい」と青島さんが持ってきた原作でした。だからあまり僕がやらないものを、やろうということで始まったのが今回の企画です。
――最初は若者が堕ちていく話にあまり共感できなかったとのことですが。
原作を読んで、この主人公はどうしようもないやつだなと思いました。そんな人物を主役に、商業映画としてどうやって撮ったらいいのかと。基本的には僕はドキュメンタリーの監督ではなく、エンターテインメントをやりたい商業映画の監督だと思っているので、読んでいる最中はそこが引っ掛かりました。でも、あの青島武さんが薦めるものですから、最後まできちんと読まなければと思ったわけです。
この小説を最後まで読んでいくうちに、いつの間に日本がこんな夢が語れない世の中になったのだろうと思うようになった。僕も(主人公と同じ)地方から出てきた大学生でしたが、当時は4畳半一間のアパートで、お風呂もなく共同トイレの生活でしたが、それでも僕のアパートに集まったやつらが、「監督をやりたい」「役者をやりたい」なんて夢を語り合っていたわけです。
しかし、今は物が豊富なのに、人と人とのコミュニケーションが非常に貧しくなってきている。そういう意味で、自分の中の切り口が「今の日本はこういう国なんだよ」ということを伝えるということにあるならば、エンターテインメントとしてやれそうな気がしたのです。
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