日本はいつの間にか夢が語れない国になった

『東京難民』佐々部清監督が語る日本社会の歪みとは

佐々部監督の思う「エンターテインメント」とは

――佐々部監督が思う「エンターテインメント」について、もう少し詳しくお聞きしたいのですが。

佐々部清  ささべ・きよし 1958年、山口県下関市生まれ。明治大学文学部演劇科、横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)を卒業後、フリーの助監督を経て、2002年『陽はまた昇る』で監督デビュー。以後、『チルソクの夏』(04/日本映画監督協会新人賞・新藤兼人賞)、『半落ち』(04/日本アカデミー賞最優秀作品賞)、『四日間の奇蹟』(05)、『カーテンコール』(05/日本映画批評家大賞作品賞)、『出口のない海』(06)、『夕凪の街 桜の国』(07/日本映画批評家大賞作品賞)、『結婚しようよ』(08)、『三本木農業高校、馬術部』(08)、『日輪の遺産』(11)、『ツレがうつになりまして。』(11/中国金鶏百花映画祭作品賞)など監督作は11本に及ぶ。ほかに「心の砕ける音」(WOWOW)、「告知せず」(EX)、「看取りの医者」(TBS)、「波の塔」(EX)、「痕跡や」(TX)などの数々のテレビドラマや、舞台「黒部の太陽」の演出なども手掛けている。

たとえば映画が2時間あるとするならば、その中にアイドルの子が出てきて、ど派手なシーンがあって、というのもエンターテインメントですが、僕の言うエンターテインメントとは、友達や恋人と映画館を出た後に、いろいろと語り合えることなんですよ。僕が学生だった20代の頃の、自分の「映画」の認識はそうだったのです。

たとえば(佐々部監督の前作)『ツレがうつになりまして。』でも、うつ病という非常に深刻なことを扱いながらも、そこに堺雅人と宮﨑あおいの丁々発止の芝居があって。「この夫婦ってああだったね」といった具合に語り合えることが、エンターテインメントだと思うのです。僕が撮ってきた映画は、基本的にはそういう映画だったと思います。『半落ち』という映画でも、そこにはちゃんと寺尾聰さんや柴田恭兵さんというスターが出ていて、その中で「女房を愛するってこういうことか」「息子と父ってこんなことか」などと語り合えればいい。そういう意味で、『東京難民』を見た大学生が「明日はわが身だ」と感じてもらえることもエンターテインメントだと思います。

――自分だったらどうなるのか、わが身を振り返るということですね。

女性なら、ヒロインをやっている大塚千弘ちゃんに共鳴してもいいと思う。僕に近い世代の女性では「(主人公の)母親目線で見ちゃった」という感想をくれた人もいました。「明日はわが身」ではなく「明日はわが子」という目線で今度、子どもと話してみようかなと。それでもいいと思うんですよ。

――確かにいろんな意見が出そうですね。

なんとなく心に留めておくだけでもいいと思います。この映画の主人公のようにならないように、支援団体やNPOといった人たちに相談できることを知るのも、大事なことですから。

でも今の学生を100人呼んで、こうなったときの支援ツールは何があるだろうかと問いかけたら、100人のうち5人も答えられないかもしれません。彼らにそんな切迫感はないはずですから。そういった社会の構造すら知らないから、転落してしまう。

――しかし、それがわからないのは学生に限らないかもしれません。

企業に勤めている僕らの世代でも、会社が倒産したら「東京難民」になってしまう。そうすると家のローンだって払えなくなりますから、将来のことだって考えなければならなくなる。僕らも、3年前に『東京難民』をやりたいんだと言い始めたときには、「東日本大震災の夜に、東京を歩いた人たちの話ですか?」って言われたものですが、でも今なら、そういう話でないことがきちんと伝わり始めたと思うのです。

――先行きが不透明な時代ですから。

そうですね。安倍さんの前の政権、第1次安倍内閣のときに、安倍さんが再三「再チャレンジができる」と言い続けていましたけど、いまだに再チャレンジができるシステムにはなっていません。1回、失敗してしまうと、そこからはい上がることは難しい。若い人たちですら再チャレンジがなかなかできないのに、僕らの世代なんて特にそうです。それもやはり社会のシステムが不透明だからだと思うのです。

(C)2014『東京難民』製作委員会
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