それに引き換え、ソチ五輪のいったいどこにカネがかかっているのか、テレビの画面からはとんと様子が窺えない。いや、そもそも夏季大会に比べて、競技種目も参加国も少ない冬季五輪で、どうしたらそんなにカネがかかってしまうのか。
ここから先は魑魅魍魎の世界となるが、どうやら途方もない規模の使途不明金が出ているらしい。ロシア国内の報道によれば、「500億ドルのうち300億ドルが着服されている」という見方さえある。
この辺の事情を、英The Economist誌はこんな風に評している。「ソチ五輪の費用からも窺えるように、ロシアでは腐敗が蔓延している。巨額の資金がオリガルキ(新興財閥)に吸い上げられ、スイスや英国といった寛大な国で貯め込まれている」(2月7日号のカバーストーリー「ウラジミール・プーチンの勝利」)。
要するにかの国には、「ソチもワルよのう」という連中が居るという話である。そんな風に言われたオリガルキ(悪徳商人たち)は、「いえいえ、プーチン様ほどでは」と応じるのだろうか。
つまり普通の民主主義国であれば、即座に内閣が吹っ飛ぶような事態が進行中である。が、そこはロシアで、この程度のことではプーチン政権はびくともしない。むしろ世界に対して大いに面目を施している、という美談になってしまうらしい。
ところが経済面から言ったら、これは由々しき問題である。わが国の場合は、「好循環実現のための経済対策」と称して、5.5兆円の補正予算を組む程度の財政力がある(少なくとも今のところは)。消費税を3%上げて生じる7.5兆円の増収分を、気前よくほとんど家計部門にお返ししてしまう。
表向きは、「物価上昇→賃上げ→消費拡大→デフレ脱却」の好循環を目指すということになっているが、本音は少し違う。年末には来年の再増税(8%→10%)の議論が浮上するから、どうしても景気の腰折れはまずい。つまり、「増税→対策→再増税」、という政府にとっての「好循環」を考えているわけだ。くれぐれも、額面通りに受け止めてはなりませんぞ。
そのくらい懐の深い日本政府であるから、2020年の東京五輪においても、その気になれば5兆円くらいかけることは不可能ではない(もちろんやらないと思うけど)。が、GDPで2兆ドル弱のロシア経済にとって、500億ドルはかなり大きな金額である。
せめてこのカネが、ちゃんとロシア国内で使われていればまだ救いがある。「穴を掘って埋める」だけの公共投資でも、理屈から言えば雇用は創出されるし、乗数効果だって期待できる。が、公金が誰かの懐に入って海外にそのまま流出してしまえば、国民経済的にはまったく価値を生まないことになる。そこでThe Economist誌も、「プーチンの勝利はロシア経済の敗北」と評しているわけだ。
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