日本人は豪雨災害頻発の未来から逃れられない どうすれば深刻な事態に備えられるのか

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――日本特有の現象ですか。

いいえ。日本国内に絞ってお話ししてきただけで、世界的にも風水害の激甚化、深刻化は進行中です。グローバル化した経済のもと、日本の企業への影響も大きいのです。例えば、2011年10月にタイで起きた大洪水では、工業団地の日系企業約450社も被災しました。日本の損害保険会社がタイの洪水被害について日系企業に支払った保険金額は約9000億円と、同年の東日本大震災の企業向け地震保険支払額の約6000億円を上回ったのです。

どうする大水害時代

――日本では今後も、河川の氾濫や洪水に伴う被害が深刻化するのでしょうか。

被害の将来予測の中には、浸水被害の規模が2050年ころには年4.4兆〜4.9兆円にも膨れ上がるという推計もあります。現状では、洪水と土砂災害合わせて年3000億円前後ですから、この数字は過大かもしれません。

内水被害(都市の雨水排水システムの処理が追いつかず浸水が生じてしまう水害)に絞った推計を私たちの研究グループで行ったところ、これまで年1200億円程度だった被害が、今世紀の終わりには年1400億〜6800億円になるという結果が得られました。このように推計には大きな幅がありますが、風水害の規模が増大し、被害が深刻化していくことは間違いありません。

――川の堤防や都市の排水システムなどのインフラが、風水害の悪化に追いついていないのではないでしょうか。

残念ながら、もちろん追いついていないのですが、別に対策をさぼっている訳ではなくて、予算や人員的な制約の範囲内で徐々に安全度を上げている途上なのです。しかし、台風でいうと、風速が約10%上がるとかかる力は2乗になるのでざっと2割増しになります。電柱などの構造物も、風力の増大を考えて設計し直さなければいけない場合もあるでしょう。

――河川の堤防やダムといった防災施設の強化、増強を図れば被害の悪化は防げるのではないですか。今回も、埼玉県春日部市の地下にある首都圏外郭放水路が役立ったとの報道がありました。

人口減少社会で、高齢化が進み、社会保障費の増大などで財政事情は厳しい。長期的にも、どんな風水害に対しても100%の安全を保てるように防災施設の整備を図ることが現実的に可能か、という問題があります。

財政面だけではなく、物理的、環境的、技術的、組織的、制度的、社会文化的、心理的な制約があるからです。地震・津波対策については、2011年の東日本大震災を受け、100年に1度のレベル(L1)への対策と、1000年に1度のレベル(L2)への対策を分けて考えるようになりました。L2は、基本的に早期警戒情報と住民避難で対応するという方向です。

しかし、治水施設整備は、L1への備えすら、短期的には難しくなってきました。気候変動により、治水安全度がどんどん低くなっていくからです。

――台風19号の被害について、最低、堤防などを元に戻す補修はされるのでしょうか。

原状復旧は急いで行われると思います。ただし、今回のような甚大な被害があると、その対応で手いっぱいで、その先の事前予防的な対策や、より強靭な防御策に資金や人が回らない事態になりつつあります。

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