日本人は豪雨災害頻発の未来から逃れられない どうすれば深刻な事態に備えられるのか

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――どうしたらいいのでしょうか。

歯をくいしばってでも、長期的な構想を描き、安全な土地や地域に集まって住み、エネルギーを浪費するのではない省エネ創エネ型で快適な生活ができるよう工夫し、よりよい地域コミュニティーも作られる、そうした方向を目指すしかありません。

住民自ら積極的に関わる必要あり

――今回の河川の決壊箇所をすべて補修したうえで、長期的にも堤防をより強固にして、決壊しない堤防を目指せばいいのではないですか。

堤防の強化は、大事です。しかし、むやみに堤防を高くすると、壊れた時、あるいは越流した時の危険度もどんどん上がってしまいます。例えば、今まで高さ5メートルだった堤防を10メートルにかさ上げすると、崩れた時には10メートルの水の壁が勢いよく住宅街などに流れ込むわけです。

破壊力も大きくなるので、あまりに高くするのは危険です。上流のダム貯水池などだけではなく、普段はテニスコートや公園のようになっているけれど豪雨の際にはいったん水を貯める機能がある遊水地を作るのも有効です。流域にできるだけ水を貯めて河川に水が流れ込む前の流域全体で洪水を管理しようという「総合治水」という考え方は当初都市河川を対象に取り入れられましたが、大河川や農村部でも検討していく価値があります。

堤防を強固にし、遊水機能を持つ施設も整備していく。それでもそれを超える水害はどこかで起きます。施設管理が多少効率的になるにしても、浸水被害は、AIやITだけでは防げません。施設整備が不可欠だけれど、万全にはなりえないという認識を持ち、とにかく命だけは守ろうという、覚悟が必要です。

地先治水という呼ばれ方をしますが、明治のころまでは自分たちの住まいや田畑は自分たちで守るのが基本でした。明治時代の終わりころから、国が川の水系一貫で治水を行ってきた。でも、それだけに頼り切ることはできない時代になってきている。

1997年に河川法が改正され、流域住民の参画という考え方が入りました。これからはこの方向が大事で、浸水被害に備え、どのように街づくりをし、どのような住まい方をしていくのか、国や自治体をあてにばかりせず、住民自らが積極的に関わる必要があります。

――そんなことができるのでしょうか。

面白い調査結果があります。統計数理研究所による日本人の国民性調査で、自然と人間との関係についての意識の変遷を示したものです。1964年の東京五輪のころまでは、自然を征服するべきと考えた人が3分の1もいたのです。

日本でも世界でもテクノロジーで自然をコントロールできる、と思っていた時代がありました。でも今は、自然と折り合いをつけていこうと考える人が半分くらいになってきています。自分たちで創意工夫して被害を減らしていく時代になっていると思います。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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