MMTが日本に「公益民主主義」をもたらす理由

「租税国家論」に代わる「新たな物語」が必要だ 

なお、MMT派の経済学者たちの論稿を邦訳した書籍としては、2009年に出版されたJ・E・キング編『ポスト・ケインズ派の経済理論』も挙げられる。

同書は、ポスト・ケインジアンの理論について、多数の経済学者がテーマごとに分担して概説したもので、レイ(「貨幣」)のほか、ウィリアム・ミッチェル&マーチン・ワッツ(「完全雇用」)、エリック・ティモアーニュ(「期待」)、マシュー・フォーステイター(「失業」)、ステファニー・ベル(「流動性選好」。ベルはケルトンの旧姓)といったMMT派の経済学者たちも寄稿している(「 」はそれぞれの論稿のタイトル)。

MMTはどのような貨幣観を持っているのか

MMTの貨幣論①(信用貨幣論)

主流派経済学の教科書では、物々交換経済の不便さを解消するために、交換価値に見合った素材価値を有する何らかのモノを「交換の媒体」として導入したのが貨幣の起源であると説明している。これがいわゆる商品貨幣論であり、商品貨幣の典型例が貴金属硬貨であるとされている。

これから世界で起きること、すでに起こっているにもかかわらず日本ではまだ認識が薄いテーマを、気鋭の論客が読み解き、議論します。この連載の記事一覧はこちら

ところが、アダム・スミスの『国富論』などの記述からも明らかなように、「経済取引はもともと物々交換によって行われていた」という想定自体がフィクションであり、歴史学や人類学の世界では、かつて物々交換が行われていたという証拠は見つかっていない。また、商品貨幣論では、現代の経済がなぜ素材価値を前提としない不換通貨で成り立っているかについて、つじつまの合った説明が行えない。

これに対して、「経済取引とはもともと貸し借りの関係を伴う信用取引であり、その際に発行された債務証書が貨幣の起源である」というのが、MMTが拠って立つ信用貨幣論である。信用貨幣論によれば、「債権」という社会的な関係に由来する価値こそが貨幣価値の裏付けとなっており、貴金属硬貨もまた、そうした債務証書の一種にすぎない。

レイが1998年に刊行した著書『Understanding Modern Money: The Key to Full Employment and Price Stability』(以下『現代貨幣を理解する』)によれば、中世ヨーロッパでは、セイヨウハシバミの木で作られた「割り符」が債務証書として発行されていた。

そして、多数の人々が発行した割り符の本体は、ほかの取引における決済手段すなわち貨幣として流通していた。さらに、流通した割り符本体の保有者たちは、定期的に集まって現代の手形交換所のような形で債権債務関係を清算していたという。

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