また、主流派経済学では、通貨が入手されれば「必ず」その一定比率が貸し出しに回され、したがって、最終的な銀行預金の残高は通貨の一定倍率に収斂することが理論上想定されている。当該倍率を「貨幣乗数」といい、こうした考え方を「貨幣乗数論」という。
これに対してMMTでは、民間銀行が貸し出しを行うのに外部から通貨を入手する必要はなく、銀行は借り手の預金口座に貸出額と同額の預金額を記帳するだけで、文字どおり無から預金を創造することができるとされている(内生的貨幣供給論)。
内生的貨幣供給論によれば、民間銀行は預金創造に伴って生じる現金引き出し需要に対応して、別途通貨を入手するため、その時点では通貨と預金の残高にある種の比例関係が成り立っているように見えるが、それはあくまで「事後的な比率」にすぎない。
したがって、借り入れニーズとは無関係に民間銀行の通貨保有高を増やしたからといって自動的に貸し出し、すなわち預金創造が行われるわけではなく、貨幣乗数論は成立しないとされている。
外生的貨幣供給論および貨幣乗数論は、多くの銀行関係者によって否定されている。あからさまに否定した例として有名なのがイングランド銀行の四半期報に掲載された解説記事だが、国内でも、例えば元日銀理事の早川英男氏は、MMTの財政政策論には異議を唱えつつ、その内生的貨幣供給論については明確な賛意を表明している。
主権通貨国の政府に財政破綻のリスクはない
発行コストが無視できるレベルであれば、何かを引き渡すことを約束しない債務証書である自国通貨は、いくらでも発行することが可能である。
したがって、変動相場制の下で自国通貨建てでモノやサービスの購入や債務の償還を行う国家(以下「主権通貨国」)の「支出能力」には制限がないというのが、MMTによる帰結となる(言うまでもなく、「自国通貨と一定の金(きん)や外貨の交換を約束する」金本位制や固定為替相場制の場合には、この命題は成り立たない)。
ゆえに、主権通貨国の政府は、財政赤字や政府債務がいくら拡大してもデフォルトに追い込まれることはないし、現代であれば中央銀行がいくらでも国債を購入できるため、国債の暴落(金利の急上昇)も防ぐことができる。
また、財政赤字の拡大は民間部門の黒字拡大(=通常は景気後退)の裏返しにすぎないため、そもそもインフレの原因ではない。MMT主唱者の1人であるステファニー・ケルトンによれば、これらの帰結を示す「非常によい事例」が現代の日本である(日本の政府純債務/長期国債金利/GDPデフレーター/プライマリーバランスの推移)。
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