MMTが日本に「公益民主主義」をもたらす理由

「租税国家論」に代わる「新たな物語」が必要だ 

ただし、「支出能力に制限がない」ということは、必ずしも「無制限に支出を拡大しても良い」ことを意味しない。なぜなら、過大な支出はインフレの過熱を招き、場合によっては通貨制度の存続そのものを危うくするからである。

税金は財源ではなく、国債は資金調達手段ではない

家計や企業は税金を支払うにも、国債を購入するにも、事前に自国通貨を入手しなければならない。ということは、事前に政府が自国通貨を発行して何らかの支出を行っていなければならない。

すなわち、MMTによれば、論理的に税金は政府の財源ではありえないし、国債も資金調達手段ではありえない。増税の目的は通貨に対する需要を増やすこと、国債の目的は望ましい金利水準を達成することである。

したがって、財政ファイナンスを禁止するのは無意味な「自主制約」である。また、事前または同時に通貨発行が行われるため、主流派経済学に基づく一般的な議論とは逆に、財政支出の結果として金利は低下する(この辺りの詳細は『MMT現代貨幣理論入門』第3~4章、または拙著第3章を参照されたい)。

経済政策の主役は財政政策

無限の支出能力を有する主権通貨国の政府は「完全雇用と物価安定」という公共目的を追求できるし、またすべきである、というのがMMTの主張である。その基礎となるのが、1940年代にアバ・ラーナーが提唱した「機能的財政論」である。

機能的財政論によれば、政府は総需要が不足して失業が生じている局面では支出拡大や減税によって総需要を刺激し、総需要不足や失業が解消されてインフレが過熱している局面では支出削減や増税によって総需要を引き下げるべきである。

この点、そうした役割は金融政策が担うべきであるというのが主流派経済学、とくにニュー・ケインジアンの主張だが、金融政策の効果が乏しいことは実証されており、極端に言えば「無力(インポ)である」(『MMT現代貨幣理論入門』473ページ)というのがMMTの主張である。

実際、ケルトンも来日時のNHKインタビューで示唆しているように、20年以上に及ぶ「金融緩和+緊縮財政」というMMTの提言とは真逆の政策を行った結果、日本経済は長期停滞とデフレに苦しんでいる(日本のGDP/財政支出/マネタリーベース/政策金利の推移)。

筆者はこの意味でも、日本がMMTの正しさを示す「非常によい事例」ではないかと考えている(詳細は拙著第8章、または『表現者クライテリオン』2019年9月号の拙稿「『日本はMMTの実証例』のもう一つの意味」を参照されたい)。

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