31歳で「自分は養子」と知らされた女性の本心 結婚を機に初めて知った真実に娘は…

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「千秋が家に来てくれて、われわれは『お父さんお母さんになる』っていう夢がかなえられた、と親はいっていて。幼稚園で急に熱を出したときのお迎えも、高校受験のときの塾の送り迎えも、部活の応援も、千秋が家に来たからこそ、経験することができたと。

私はただ生きてきただけと思っていたけど、知らない間にこんなにも長く、誰かの夢をかなえ続けていたんだ、と思ったら私自身すごくうれしかった。実親と一緒にいることができずに養子になったというスタートの事実は悲しいけれど、生まれてきてよかったなと思ったんです」

自分が存在することへの全肯定、とでもいうのでしょうか。こんなふうに「自分がそこにいるだけで誰かが心から喜んでくれている」と子どもが思えたら、親と血縁があろうがなかろうが関係なく大丈夫なんじゃないかな、という気がします。

千秋さんが伝えたいこと

養子をこれから迎える、あるいは今育てている人たちに、千秋さんは「今この瞬間を大切にしてほしい」といいます。

「血のつながらない子どもを育てている親御さんには、もっとその時間の幸せを感じてほしいと思います。真実告知をいつにしようとか、どういうふうに伝えようとか、不安になってしまう気持ちもわかるのですけれど、子どもがいる生活、わが子を愛し、わが子に愛されている毎日を、大切にしてほしいなと」

多くの養親がタイミングについて悩む“真実告知”(子どもに「実は血がつながっていない」と伝えること)については、「そんなにびくびくしなくても」と感じているそう。

「ショックを受けるのは正直、当たり前のことだと思うんですね。でも、そんな悲しい状況を支えてあげられるものこそが家族だと思うんです。誰だって大切な人が悩んでいたら助けてあげたくなるでしょう。真実告知のときも同じで、子どもは悲しむけれど、一緒に乗り越えていってほしい。親が怖がっていたら、子どもはもっと不安になります。血のつながりにとらわられず、何かあったら力になるよ、ということを伝えてあげてほしいと思います」

この夏、千秋さんは、養子の立場の人だけが集まるイベントや、養親向けのイベントを開催しました。ゆくゆくは「養子縁組後の家族を支援するサービスができればいいな」と考えているそうです。

「養子ってすごくセンシティブな問題ですけれど。いまは養親側の意見ばかりがすごく目立つので、養子の子ども側の意見も、社会にもっと伝えていければいいなと思います」

本連載では、いろいろな環境で育った子どもの立場の方のお話をお待ちしております。詳細は個別に取材させていただきますので、こちらのフォームよりご連絡ください。

大塚 玲子 ノンフィクションライター

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おおつか れいこ / Reiko Otsuka

主なテーマは「いろんな形の家族」と「PTA(学校と保護者)」。著書は当連載「おとなたちには、わからない。」を元にまとめた『ルポ 定形外家族』(SB新書)のほか、『さよなら、理不尽PTA!』(辰巳出版)『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(同)など。テレビ、ラジオ出演、講演多数。HP

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