大阪で鍛えた「車いすの社長」の堅実なビジネス 障害者から見るユニバーサルデザインの真髄
垣内:言わなかったです。言われたことはやるしかないだろう、と思いました。外回りの営業をする中で、そもそも最寄り駅にエレベーターがなかったり、建物に階段があって入れなかったりなど、訪問先に伺うことさえかなわない日が続き、とてもつらい思いをしました。でも、歩くことができない私を唯一拾ってくれた会社だったので、このチャンスを逃すまいと頑張るしかありませんでした。車いすで何度も何度も顧客の元に通い続けた結果、社内でトップの成績をおさめることができました。
そのとき社長に「歩けないことに胸を張れ。車いすに乗っていることでお客さんに覚えてもらえて結果につながっている。それはお前にとって強みだ。障害があることに誇りを持て」と言われたことを励みに、「障害があることが自分の強み」という思いで2010年に会社を設立しました。
真山:諦めないで続けられたそのエネルギー源はどこに?
垣内:私自身、リハビリをして手術を受けて、歩けるようになろうとどんなに努力をしても、結果的に歩けなかったという現実がありました。もう歩くことはかなわないということがわかっていたので、「歩けなくてもできること」「目の前にあることをまずはやりきらなければいけない」という、ひとつの覚悟だけはあったんだと思います。それがエネルギー源かもしれませんね。
真山:障害のある人が障害をビジネスにするということは、とてもセンシティブであり、ちょっとドキッとしてしまうところが正直あります。なぜ、障害をビジネスにしようと思われたのですか?
垣内:私は骨が弱く折れやすい病気で車いすに乗っています。これは遺伝的に受け継がれていて、父も弟も同じ病気です。さかのぼれば先祖の頃は、舗装された道路も歩道もない、車いすも高価で買えない、外出さえも厳しい時代でした。今はようやく外に出られるようになっていますが、思う存分に学べているか、働けているか、遊べているかというとまだまだそうではありません。これからの子孫のためにも、また広く見れば、多くの人のためにもなるだろうという思いがひとつの動機となり、この仕事をやっていこう、と決めることができました。
ユニバーサルデザインは儲かる?
真山:世間には「障害を売り物にしているじゃないか」と言う方もいませんか?
垣内:それはかなり気にしています。だから私は、障害を価値にすることはよくても武器にはしないとずっと言っています。「武器にする」ということは、誰かを虐げたり無理強いしたりすることになります。
例えば車いすに乗っている私が、「バリアフリーは大切ですよ」と言ったら説得力がありますが、それは人権主張でしかありません。そこで「バリアフリーにすることで、御社はこれだけ儲かりますよ! だからやりませんか?」という発信をすることで、武器ではなく価値にしていこうということに、こだわってきました。
真山:「いいことをしましょう!」ではなく「儲かりまっせ!!」ですね。実際に儲かるのでしょうか?
垣内:そうですね。いま日本の人口に占める65歳以上の高齢者は3600万人、障害のある人は900万人を超えています。日常生活において何らかの不便や不安を感じているであろう人がそれだけ多いと言えるのですが、飲食店や宿泊施設でユニバーサルデザインに積極的な企業は相対的には決して多くありません。先んじて取り組んだ企業に喜ばれ、リピーターも増やせ、儲けにつなげていくことができます。