お客の購買を驚くほど正確に促したAIの驚愕 人間の専門家が立てた策はほぼ動かなかった

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また、マネジメント的な観点では、店長や副店長が、いつ誰とコミュニケーションをとり、いつどこで現場の作業を行っていたかということが収集される。さらに、顧客および店員行動における動きや会話の活発度なども収集される。

実際の実験の際には、入り口でランダムにサンプリングした顧客に、この名札型センサーの装着をお願いした。店舗内の実態調査の目的を説明し、店舗で買い物をしている間、名札型センサーを装着してもらうことをお願いした。

レジでの購買記録(POSデータ)、業務シフトや店舗のレイアウトデータ(どこが何売り場かなどの情報)と合わせることにより、従来得ることのできなかった店舗での購買行動と業務オペレーションに関する網羅的なデータの収集が可能になったのである。

重要なことは、この技術を使うことによって、顧客が入店してから退店するまでの行動とその周りのコンテキスト(商品・棚・通路・従業員)との相互作用が計測されることである。言い換えると、人の購買行動に関わる、人と「コンテキスト」との複合系の経済現象を定量的に計測できたのである。

コンピューターvs人間

この大量データの取得自体は、購買現象の理解にむけて、大きな前進である。しかしデータを集めただけで喜ぶことはできない。データは大量かつ多様であり、人間がその全貌を見るのはとうてい不可能である。このため、このような大量データに潜む意味をくみ取り、業績向上要因を発見するために、新しいビッグデータ専用のコンピューターの開発も同時にわれわれは進めてきた。このコンピューター(人工知能ソフトウエア)を「Hitachi Online Learning Machine for Elastic Society」と呼び、以下「H」と略記する。具体的な実験結果を紹介しよう。

われわれはまず10日間だけこの店舗でこの計測システムを運用し予備的データを取得、この計測データをHに分析させた。そして、1カ月後にこの店舗の売り上げをどこまで向上できるかを、人間の専門家とHとの間で競ってもらった。ゴールは、来店した顧客が店内で使う金額(この平均値を「顧客単価」と呼ぶ)を向上させることである。

流通業界で実績のある2人の専門家にはチームで売り上げ向上策を練ってもらった。長年の経験を持っている会社幹部にインタビューを行ったり、店長や店舗改善の担当者にヒアリングしたりするとともに、事前データも参考にした。その結果、水道用品やLED電球などの注力すべき商品群を決め、この店内広告を設置したり、棚の配置を改善したりした。

一方、人工知能Hは、入力した大量のデータを、一旦、小さな要素にばらばらに分解し、これをさまざまな組み合わせで再度合成することにより、業績向上に影響する可能性のある膨大な数の要因群を自動的に生成した。具体的には、6000個の業績要因を自動で生成し、業績との統計的な相関関係のチェックをコンピューターが網羅的に行った。このときに、流通業界の常識や仮説は使わず、純粋にデータだけを使った。

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