ヤフーのZOZO買収がアマゾンを意識する理由 セブン、ユニクロに並ぶ対抗馬になるかも

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2011年にベゾスは5億4500万ドルでこの会社(その頃にはクイッツィと名称変更しています)を買収、それに続いて2012年に高度な倉庫ロボット会社であるキバ・システムズを7億7500万ドルで買収しています。日本円にして1400億円ほどの買収になりますが、それが現在のアマゾンの物流インフラを変える画期的なイノベーションだったことを考えれば、この買収は安い投資だったのではないでしょうか。

さて今回、ヤフーは高収益のインターネットモールであるZOZOTOWNだけでなく、これと同じZOZOの物流インフラもワンセットで手に入れることになります。そう考えると総額で4000億円規模といわれる今回の買収はヤフーから見れば安い買収だと後で振り返ることになるかもしれません。

まだこの記事を執筆した2019年9月12日17時ごろの段階では発表情報は限られています。子会社化するとはいえ両社はそれぞれ独立した企業として活動すること、ヤフーがこの秋に開設するPayPayモールにZOZOTOWNが出店すること、ZOZOTOWNでPayPayが使えるようにすること、相互に顧客を送り込むこと、そしてそれ以外の分野でも協力関係を築くことといったことが発表されています。当初は発表通り両社の提携分野は絞っていくのかもしれません。

物流分野でもアマゾンに迫れる

ただ整理をしてみるとこの提携で今後のヤフーは生き残りを有利に進められるようになると思います。もともとヤフオクで優位性を持ちヤフーショッピングもそこそこ強く、これまでのTポイント経済圏、これからのPayPay経済圏とソフトバンクユーザー効果で顧客を囲い込んできた。そこに今回、ZOZOTOWNという強いアパレルモールが追加されるとともに、物流分野でもアマゾンに迫れる。

未来の小売業はそのほとんどがアマゾンに破壊されるといわれます。国内の小売業の中ではアマゾンに対抗できるのはセブン-イレブン、ユニクロぐらいかと思われてきましたが、それと同じくらい将来性が見込める存在にヤフーが生まれ変わることができるかもしれない。そんな期待感を抱かせる今回の買収劇だったと思います。

ただ最後にひとこと付け加えると前澤友作氏を手放したのはヤフーにとってはもったいない。あれほどのビジョンをもった経営者はなかなかいないというのが、個人的意見です。今回のヤフーにとって奇跡のような買収劇が成立したのは、前澤氏が新しいことにチャレンジしたかったからなのかもしれません。そこにも注目したいところです。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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