「クレイジージャーニー」「消えた天才」不正の闇 TBSの組織的な不祥事か、個人の過ちか

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また、撮影前に行われる会議の段階から、「できた」シーンのイメージのみで仕事を進めてしまいがちなのも問題点の1つであり、改善すべきポイント。「『できなかった』シーンのリアリティーをどう伝えるか、どう面白くしていくか」は、「できた」シーン以上に考えていくべきでしょう。そもそも、いわゆる“撮れ高”は、会議の段階でイメージした「できた」シーンだけではないはずであり、それを絶対視するから不正を行ってしまうのです。

2つ目の対策は、内容に対するハードルが上がり、ネタに苦しみはじめたら、潔く企画そのものを終わらせて、次の企画を考える(最低でもリニューアルをする)こと。「高視聴率だから」「ファンが多いから」という理由だけで続けていくと、制作サイドの苦しみは回を追うごとに増すだけであり、今回のような不正につながりかねません。

また、この2つと同等以上に重要なのは、プロデューサーやアシスタントプロデューサーらが、日ごろから制作現場の声に耳を傾け、問題発生の兆しに気づくよう心がけること。撮れ高や視聴率などの結果を最優先させていたら風通しのいい組織にはならず、今後もコソコソと不正に手を染めてしまう人が現れるでしょう。

TBSに求められる性悪説での管理

最後に再び謝罪文の内容に触れると、「クレイジージャーニー」の不正については、「事実に依拠した番組で事実を歪めたことになり、あってはならないもの」。「消えた天才」の不正については、「アスリートの凄さを実際の映像で表現するという番組の根幹をなす部分を加工することは、番組としては絶対にあってはならない手法」と書かれていました。

TBSは外部からの指摘を受けて内部調査を進めたようですが、「あってはならないもの」が続けて起こった以上、「対応が甘く、遅い」と言われても仕方がないでしょう。

今回のような不正は民放各局に起こりうるものではありますが、世間の人々から疑惑の目を向けられている以上、信頼に基づく性善説だけでは不十分。今こそ、「人の本性は悪であり、それが善になるのは人間の意思で努力するからである」という性悪説に基づいた管理面での努力が求められているのです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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