サブプライム危機の正念場!信用劣化の悪循環消す公的資金の注入が焦点

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(週刊東洋経済3月1日号より)

 FRBによる大胆な追加利下げにもかかわらず、金融危機の不安は一向に消えない。株価は乱高下を繰り返し、企業の代表的な資金調達手段であるAB(資産担保)CPの発行額も低迷が続く。「これは金融機関の自己資本の毀損が信用創造機能を低下させているためで、金融緩和が働きにくい」(吉川雅幸・メリルリンチ日本証券チーフエコノミスト)という。この閉塞状況を突破するには「金融機関が、自己資本毀損を上回る資本増強が達成できるか否かにかかっている」(吉川氏)。

 そのためには金融機関の最終的な損失額の確定が必要だ。現在、マーケットを揺るがしているモノライン(金融保証会社)の資本不足が、金融機関等の増資によって解消されれば、これが「危機拡大を阻止する防波堤となる。ここで止まれるかが重要なポイント」(山川哲史・ゴールドマン・サックス証券チーフエコノミスト)。なぜなら、金融機関の損失額がサブプライム関連証券だけで済むからだ。このときの損失額をゴールドマン・サックス証券は2110億ドルと試算している。

長期金利の低下が資本増強を後押し

 しかし、モノラインの格下げによる危機がさらに拡散して、CRE(商業用不動産ローン)の損失拡大、RMBS(住宅ローン担保証券)やそこから派生するCDO(債務担保証券)、あるいはハイブリッド型の住宅ローン(Alt−A)、C&I(商工業ローン)、消費者ローンなどに評価損が広がれば、信用劣化の悪循環に陥り、5000億ドルにも損失が膨らんでしまう(右グラフ参照)。

 ここまで自己資本増強が金融機関に必要となると、マーケットが恐慌モードにシフトしてしまい、金融機関独自での増資努力は限界となる。こうなれば、公的資金が何らかの形でコミットする形になろう。現在のように公的資金をめぐり、モラルハザード論議で何も決まらない状態が続けば、時間軸との戦いに敗れて経済パニックを起こしかねない。「過去の恐慌において、金融緩和とともに公的資金が注入されなかった例はない」(安達誠司・ドイツ証券シニア・エコノミスト)からだ。

 一方、現時点では長期金利の低下が金融機関の資本増強に役立っている。昨年前半までのレバレッジのかかったリスク性資金が巻き戻され、安全資産である米国債へ向かう中で、長期金利は低く抑えられる(10年物米国債金利は3・5%程度)。年6%超のインフレ率を抱えるサウジアラビアなど湾岸諸国にとっては、逆ザヤ投資を余儀なくされる。また自国通貨がドルペッグ(連動)されており、為替差益もとれない。

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