高校野球での「スポーツマンシップ」本当の意義 過剰な美談作りでなく必要なのは正しい理解

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ただし、1点だけ、申し添えたいことがある。今夏の甲子園では、試合中の投手に対戦相手の選手が、塩分補給剤やドリンクを手渡すシーンが見られた。これも「スポーツマンシップの表れ」と多くのメディアが取り上げたが、これは野球規則に抵触している。

野球規則4.00 試合の準備
4.06 ユニフォーム使用者の禁止事項
(2)監督、コーチまたはプレーヤーが、試合前、試合中を問わず、いかなるときでも観衆に話しかけたり、または相手チームのプレーヤーと親睦的態度をとること。

試合の中で転倒した選手を相手チームの選手が助け起こすようなシーンを見かけることがある。また、死球などで昏倒した打者を相手の選手が助けようとすることもある。これらも厳密には「相手チームのプレーヤーと親睦的態度をとる」ことにはなろうが、プレーの流れの中でのことであり「許容範囲」ではあろう。

しかし、試合中に物品を相手選手に渡してしまう行為はどうだろうか。

心情的には理解できる。甲子園球場のある兵庫県西宮市は今夏も酷暑が続いた。球児たちは相手チームと戦う以上に、酷暑とも戦っていた。相手チームと言えども暑さと戦う「同志」という感覚で、「敵に塩」を送ったのだろう。これらの行為について、審判は規則違反であることを説明する必要はある。

先ほど例に出した野球規則には、「試合前、試合中を問わず」と明記しているが、「試合後」とは書かれていない。

フットボール系のゲームでは試合が終わることを「ノーサイド」という。敵味方の別がなくなるということだが、野球でも試合が終わればライバルたちは「野球をする仲間」に戻るのだ。相手チームとの交流は、試合後にすれば何の問題もないのだ。

敵に塩を送る行為が美談として定着して良いのか?

筆者が恐れるのは、この手の「敵に塩を送る」行為が流行することだ。試合中に相手の選手にドリンクやサプリを持っていくのが「麗しい習慣」として定着するのは、スポーツマンシップの本筋から外れたことだと思う。

韓国、プサン(釜山)のキジャン(機張)で間もなく始まるU18ワールドカップの試合中に、日本チームの選手が、甲子園と同様に相手チームの選手へドリンクやサプリを手渡そうとしたら、相手チームや外国人の審判がどんな反応を示すかも気がかりだ。国際大会で言えば、自分たちで用意していない薬物や飲料を摂取することは、ドーピングの嫌疑をかけられる可能性もある。注意すべきことだ。

ドリンクや錠剤を与えた選手は純粋に善意で行ったわけであり、彼らは間違いなく「いい奴」だ。その行為を責める必要はないが、これを機に高校野球全体が野球規則をよく知るとともに「スポーツマンシップ」の本来の意義を正しく理解する必要がありそうだ。

(文中一部敬称略)

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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