障害者枠で契約社員として働くADHD男性の苦悩 年収150万円、同級生との格差は広がる一方

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「多少の細工では普通を演じられないところが、僕が障害者たる所以なんだろう。僕のミスは必ず露呈する。
(中略)3日に1回は、上司に呼び出される。ミスが多いのも当然。仕事を続けるための苦肉の策とはいえ、あえて気を散らしているのだから。でも、上司にそんなことは言わない。申し訳ないふりをして『ごめんなさい、以後気をつけます』みたいな言葉を、ニュアンスを変えて繰り返す。我ながら白々しい。でも、仕方ない」

入社してわかったことの1つは、作業の速さや正確さで、自分が到底及ばない知的障害者がたくさんいる、ということだという。身体障害者や知的障害者にはそれぞれの苦労があると思うとしたうえで、リョウジさんはこう記す。

「もしかしたら、発達障害者は能力的にも、社会的地位も最底辺ではないかと、たまに考えてしまう。僕は人類最底辺ではないかと、たまに考えてしまう」

ひどく落ち込んでいるのかと思いきや、取材で会ったリョウジさんは朗らかで、話題の豊富な人だった。同居している家族との関係も良好で、父親ともよく話をするし、母親とは最近、漫画原作の実写映画『キングダム』を一緒に見に行った。弟と、その彼女の3人でお酒を飲むこともある。

過去には、女性から告白されたこともあるという。しかし、年収150万円では、どうにも気後れしてしまい、理由は告げずに断った。正社員並みにとはいわない。でも、「フルタイムで働くので、せめて自活できるくらいの給料がほしい」と話す。

生活保護を利用して「幸せ」を手にする友人

リョウジさんには、大人になってから知り合った発達障害の友人たちもおり、彼らの自宅に泊りがけで遊びに行くこともある。彼らは兄妹だったり、恋人同士だったりして、それぞれが生活保護を利用して暮らしている。ただ、リョウジさんには、この友人たちの生きざまが、時にとてもまぶしく見えるのだという。

リョウジさんは掲示板に、友人たちについてこう書いている。

「(彼らは)絶対的にお互いの味方なんだ。その辺の家族より家族らしい。等身大、かつ最大限の幸せな今を生きている。(中略)世間から見たら、生活保護をもらい、のんびり暮らす障害者は後ろ指を指される存在かもしれない、でも、僕は彼らを心から尊敬する。世間の雑音に耳を貸さず、自分たちの幸せを、自分たちで定義する、人生に対するまじめさに。僕もいつかそんな境地にたどり着きたいと思う」

取材前、リョウジさんは何かの参考になればと、自分が掲示板に書き込んだ文章が読めるURLを送ってくれた。私はその豊かな表現と、繊細な描写にひかれ、今回の記事の中で、その一部を抜粋させてもらうことにした。

書き込みには、自分と周囲をこんなふうに比較しているくだりもあった。「普通を手に入れ、さらなる高みへ続く“王道”を歩く」高校時代の友人と、「自分を過信も卑下もせず、等身大の幸せを手に入れ、“邪道”を行く」発達障害の友人と、「普通に生きることを望むもかなわず、それでも普通に執着する僕」――。書き込みには、こんな比較をするくだりもあった。リョウジさんのヒリヒリするような不安が伝わってくる。

現在、リョウジさんは電気工事士の資格を取るための勉強をしている。資格を利用し、ビルメンテナンスの仕事でも見つけることができれば、障害のハンディにかかわらず、比較的自分のペースで作業ができるのではないか。一般枠での雇用であれば、今よりも安定するし、給料も上がるはずだ。

障害のせいで、労働の現場では足元を見られ、少なくないことを諦めざるをえない。ふざけた現実を前に、ある意味、達観した生き方を選ぶ発達障害の友人たちに敬意を抱くことも、年収150万円という現実から何とか浮上しようともがくことも。どちらのリョウジさんにも、私は共感する。

いつか、王道でもない、邪道でもない、リョウジさんだけの道が見つかる日が来るかもしれない。リョウジさんは、ある日の書き込みをこう締めくくった。

「今を心から大好きだと言える境地にたどり着けると、僕は僕を信じる」

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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