入社してわかったことの1つは、作業の速さや正確さで、自分が到底及ばない知的障害者がたくさんいる、ということだという。身体障害者や知的障害者にはそれぞれの苦労があると思うとしたうえで、リョウジさんはこう記す。
ひどく落ち込んでいるのかと思いきや、取材で会ったリョウジさんは朗らかで、話題の豊富な人だった。同居している家族との関係も良好で、父親ともよく話をするし、母親とは最近、漫画原作の実写映画『キングダム』を一緒に見に行った。弟と、その彼女の3人でお酒を飲むこともある。
過去には、女性から告白されたこともあるという。しかし、年収150万円では、どうにも気後れしてしまい、理由は告げずに断った。正社員並みにとはいわない。でも、「フルタイムで働くので、せめて自活できるくらいの給料がほしい」と話す。
生活保護を利用して「幸せ」を手にする友人
リョウジさんには、大人になってから知り合った発達障害の友人たちもおり、彼らの自宅に泊りがけで遊びに行くこともある。彼らは兄妹だったり、恋人同士だったりして、それぞれが生活保護を利用して暮らしている。ただ、リョウジさんには、この友人たちの生きざまが、時にとてもまぶしく見えるのだという。
リョウジさんは掲示板に、友人たちについてこう書いている。
取材前、リョウジさんは何かの参考になればと、自分が掲示板に書き込んだ文章が読めるURLを送ってくれた。私はその豊かな表現と、繊細な描写にひかれ、今回の記事の中で、その一部を抜粋させてもらうことにした。
書き込みには、自分と周囲をこんなふうに比較しているくだりもあった。「普通を手に入れ、さらなる高みへ続く“王道”を歩く」高校時代の友人と、「自分を過信も卑下もせず、等身大の幸せを手に入れ、“邪道”を行く」発達障害の友人と、「普通に生きることを望むもかなわず、それでも普通に執着する僕」――。書き込みには、こんな比較をするくだりもあった。リョウジさんのヒリヒリするような不安が伝わってくる。
現在、リョウジさんは電気工事士の資格を取るための勉強をしている。資格を利用し、ビルメンテナンスの仕事でも見つけることができれば、障害のハンディにかかわらず、比較的自分のペースで作業ができるのではないか。一般枠での雇用であれば、今よりも安定するし、給料も上がるはずだ。
障害のせいで、労働の現場では足元を見られ、少なくないことを諦めざるをえない。ふざけた現実を前に、ある意味、達観した生き方を選ぶ発達障害の友人たちに敬意を抱くことも、年収150万円という現実から何とか浮上しようともがくことも。どちらのリョウジさんにも、私は共感する。
いつか、王道でもない、邪道でもない、リョウジさんだけの道が見つかる日が来るかもしれない。リョウジさんは、ある日の書き込みをこう締めくくった。
「今を心から大好きだと言える境地にたどり着けると、僕は僕を信じる」
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