自ら毛を抜く「抜毛症」に陥った女子大生の壮絶 自分を責め続け、気づけば入院する事態に

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そのときにまた、振り出しに戻った感じになりました。もちろん病気が治ったのはうれしいけれど、それだけでは『幸せ』にはなれないんだとしたら、どうしたらいいのか? それで『仕事が面白い』と思えるようになりたいな、と思ったとき、以前短期でアルバイトをしたある会社を思い出しました。その会社の人たちはすごく楽しそうに働いていたから、あそこに行けば、何かヒントが得られるんじゃないかと思ったんです」

さっそく電話をして、「働きたいんですが、何か仕事はないですか?」と尋ねたところ、「パソコンができるようになったら、もう1回電話をして」という返事。そこで小林さんはパソコン教室に通って資格を取り、再度トライしました。週1日から働き始め、徐々に働く日数を増やしていくことに。

今度の職場は、これまでの職場とは違いました。社員教育の研修をしている会社だったせいか、社長の「教え方がすごく丁寧」だったのです。小林さんがうまくできなかった仕事の何が問題だったかを具体的に指摘し、どうすればいいかを自分で気づくように導いてくれたので、徐々に「自分に合うやり方」が見つかるようになってきました。

「仕事って面白い」。初めて思えたこの会社で、小林さんは今も働いています。

仕事だけではありません。2006年には5年付き合っていた男性と結婚。2010年ごろから「自分の生活を充実させるために時間を使おう」と決め、私生活も変え始めます。本を読む、食生活を改善するため料理をする、苦手だった運動を生活に取り入れる、ボランティア活動に参加する、気になる講座に参加してみる――。そうこうしているうちに、子どもにも恵まれました。

「すごく楽しく前向きな気持ちで、いろいろ積極的にやっていたのがよかったんでしょうね。だんだんすごく元気になっていって、現在に至ります。最近は抜毛症のことなど、私の体験を伝える講演活動もするようになりました」

なお小林さんは、診断はついていないものの、自分には発達障害に近い傾向があると感じているそう。そこで、自分と同じようなタイプの人がどうやったら仕事を続けやすくなるか、というテーマで講演を行ったところ、当事者からも受け入れる企業側からも、「参考になる」と大きな反響があったということです。

たとえ症状は治らなくても、心は回復できる

振り返ってみて、自分がなぜ「抜毛症」になったのか? 「わからない」と小林さんは言います。「家庭環境に原因がある」という人もいますが、小林さんの場合にはあてはまらないのです。

「今思うと、高校生のときは“もっともっと頑張らないといけない”という気持ちがすごく強くて、ずっと自分のことを責めていました。本当は1人でいるのがすごく好きなのに、“もっと社交的じゃないといけない”と思ったりして、あるがままの自分を受け入れることができなかった。周りを整えることばかりに必死で、自分のことを置いてきぼりにしていたんです。

『自分を大切にする』、なんてよく聞く言葉ですけれど、すごく大事だな、と思うようになりました。やっぱり『自分』なんですよね。ほかの誰でもなく、自分が自分の味方になってあげること。それしかないのかな、と思います」

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