自ら毛を抜く「抜毛症」に陥った女子大生の壮絶 自分を責め続け、気づけば入院する事態に

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できないことがだんだんと増えていくのは、恐ろしいことでした。過呼吸を起こしてバスに乗れなくなる。手が震えて歯ブラシを持てなくなる。それまで「なんでも頑張らなければ」と思って過ごしてきたため、「頑張れていない自分、結果を何も出せない自分を、すごく怖く感じた」そう。

「抜毛症のことは友達みんなにも、家族や付き合っている人にも言っていたんですが、不安な気持ちをわかってもらえないんですよ。みんな優しいし、わかろうとしてはくれるんだけれど、誰にも気持ちを共有してもらえない。それで、どんどん不安定になっていきました」

友人たちが楽しそうに過ごすなか、小林さんは精神科に入院し、大学を中退します。「1人になった」という孤独感でいっぱいでした。

「でも、入院してみたらいろんな病気を抱えている人がいて、話してみたら打ち解けるんです。どこにいても打ち解け合える人はいるんだな、と思って。病院食も、最初は『おいしくないな』と思っていたのに、3カ月もいたら楽しみになってきて。どういう状況でも、楽しみってあるものだな、と思いました。

長く入院されている方もいたので、そのうちだんだんと『ここにいるから治るというものでもないし、先生が治してくれるわけでないんだな』ということがわかってきて。『舵を取るのは自分なんだな』と。そう気づいたのが20歳くらいのときです」

誰かに言われたのではなく、自分で気づいたのがよかったのかもしれません。自分が主体的に舵取りをしていかないと、おそらく10年後も今と同じ生活をしているだろう――。「これまでとは違うことをしなければ」と気づいた小林さんは、行動を変えました。

「まず、ノートに思いついたことを書きとめて、カウンセリングのとき先生(担当医)に報告するようになったんです。それまでは、ただ『今週もつらかった』とか『また不安です』みたいな話しかしていなかったのが、『今週はこんなことをしてよかったので、来週はこういうことをしてみようと思う』といった話をするように変わって。

そうやって自分が主体となってカウンセリングに取り組み始めたら、だんだんと調子がよくなっていきました」

私だけは、自分の味方になろう

担当医から「働いてみたら?」と言われたのが、22歳のとき。そこでアルバイトから始めることにしたのですが、応募してもなかなか採用されません。面接のとき、「精神科に通っているため休みが必要」などと正直に話していたからです。

「いまは障害者雇用が進んでいるのでだいぶ違うと思いますが、当時(20年前)は『元気じゃない人が働こうというのは、わがままじゃないか。治ってからやればいいじゃないか』ということを、よく言われました。

でも途中から履歴書に通院のことを書くのをやめたりして、ときどき採用されるようになってきて。友達が『またそんなこと書いたの? 健康状態の欄は、必ず“良好”と書くもんだよ』と言って笑い飛ばしてくれたので。これまでずっとそうですが、いろんな友達に支えられて、なんとか頑張ってこられた感じです」

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