(第4話)舞妓さんのモチベーションを高める言葉

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●見ててくれはる

 失敗すると、だれでも「しまった」と思います。新人の舞妓さんたちも少し慣れてくると、自分のした失敗がわかるようになります。そしてそれを他人から指摘されることは、わかっているから余計に辛く感じます。

 「うち、ほんまに毎日、毎日失敗ばっかりで、すんまへんと、今日かて何べん言うたかわからへんほどどす。お母さんにも、うちが鈍(どん)やさかに、ほんまに申し訳のうて」と、あどけない舞妓さんが少し伏せ目がちに話す姿を見ると、こちらもかわいそうな気がします。

 そんなとき、彼女の置屋のお母さんが「お姉さんやお母さんは、あんたのこと、ちゃんと見ててくれはんのえ。どうでもええと思うたら、何にも言うてくれはらへんし、あんたのことを見ぃもしてくれはらへんえ」と、言葉をかけていました。

 人から何か「言われる」前には、「見られる」ことが必要です。そのことがわかった新人の舞妓さんは、きっと失敗を教えてくれる先輩のお姉さんたちから見守られていると感じ、たとえ年齢の離れた厳しい芸妓さんでも、自分と近しい距離の存在だと思うことができます。

 自分の失敗を周囲の人から指摘されたときに、「何でわかったのだろうか? ○○さんは、私のことをいちいちチェックして、失敗をあげつらうためかも」とネガティブにとるか、「私がちゃんとできているかどうかを、○○さんは、見ててくれはるんやなぁ、忙しいに、ありがたいなぁ」とポジティブに感じるかでは、今後の自分と周囲の人との関係性の築き方に大きな違いが生まれます。見られる対象になることを、組織の一員として受け止められていることだと思えれば、周囲のサポートを前向きに受け止め、自分の技能を磨くことにもつながるのです。

お茶屋(一力亭)の外観: 祇園甲部にある京都花街最大のお茶屋で、大石内蔵助が滞在したことでも有名。四条通から花見小路通に入った左手にある。ここから、花街散歩を楽しんでいただきたい。
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