西尾久美子
●言うてくれはる
新人の舞妓さんたちには、毎日、周囲からさまざまな言葉がかけられます。「気ばって、お稽古しているなぁ」といったうれしい言葉も時にはありますが、「かんざしの挿し方、こうしたほうがええ」、「帯をバタバタさせたら、じゃまになるさかい、気ぃつけてや」などと、自分の不十分なことを指摘される耳の痛いことがほとんどです。そのたびに、「すんまへん、○○さん姉さん、気ぃつけます、おおきに」と、謝ると同時に指摘されたことにお礼を言います。そして、置屋に帰って、いつどこでだれから何を「言うてもらった=指摘をうけた」のかを、きちんと報告しなければなりません。
新人の舞妓さん本人は必死でお稽古したり、お座敷をつとめたりしているつもりですが、経験が乏しい新人の様子は、先輩にとっては未熟なことばかりです。耳の痛いことを言うのは先輩としても決して気持ちのよいものではありませんが、お座敷では、経験年数に関係なく「舞妓さん」というプロフェッショナルとしてお客様の前に立つのですから、サービスの品質を保つためには口にしなければなりません。
さらに、新人だからといって周囲から期待されている舞妓さんらしい振る舞いができないことは、目の前にいるお客様に適切なサービスが提供できないだけでなく、京都の「舞妓さん」全体のイメージの低下につながるような、大きな問題にもなってしまいます。
誰でも、不十分でもがんばっていることを評価されるような声かけが欲しいと思います。でも、それだけでは、適切な努力を促すことにつながりません。耳が痛いことでも「言うてくれはる」と受け止めることで、周囲から自分の評価をもらえることを心から「おおきに」と受け止め、それを生かして今後の自分を創っていく自覚につながっていくのです。
花街を歩く芸妓さん。舞妓さんと比べ落ち着いた風情になる。帯も「だらりの帯」には結わずに「お太鼓」と呼ばれる結い方をし、「おこぼ」もはかない。
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