リブラの準備資産の制度設計上はリブラの現金化ができなくなるという事態は発生しない。だが、リーマンショックのような金融危機時には、主要国の金融機関の経営が悪化して、リブラの準備資産として保有している預金を引き出せなくなるということは起こりうる。
銀行の場合には、日本銀行やFRB(米連邦準備制度理事会)のような中央銀行が、「最後の貸し手」として大量の資金供給を行い金融機関の資金繰りを確保する。しかし、リブラの場合にはそもそも銀行ではないうえ、活動が多数の国にまたがるので、中央銀行の支援を得るには各国の協調が必要で、迅速な対処は難しいと考えられる。
為替リスクがあり、かなり大きく変動する
先に紹介したIMFの報告書は、複数通貨のバスケットで価値が決まるリブラでは、為替リスクがあると指摘している。リブラでは、単一の通貨や資産ではなく、複数の通貨のバスケットである点がテザーなどとは異なっている。ビットコインなどに比べれば通貨のバスケットは価値の変動が小さくなるが、それでも為替レートの変動による価値の動きはかなり大きなもので、商取引の支払いなどでは、為替リスクに配慮する必要がある。
IMFの準備資産であるSDRは、1SDRが0.5825ドル、0.38671ユーロ、1.0174人民元、11.9円、0.085946ポンドで構成される通貨バスケットの価値とされている。例えば、この構成比の通貨バスケットを1単位の価値として採用する暗号通貨を作ったとすると、その円建ての価値は長期的には相当大きな変動をすることになる。
1カ月で数%の変動をすることはかなり頻繁に起こっており、この暗号通貨によって日本国内で送金を行った場合には、即座に円に交換しないと、大きな為替リスクを負うことになる。米ドルにペッグしているテザーであれば、米国内で取引や送金に使ったり、ドル建ての国際取引で利用したりする場合には為替レートの変動をまったく気にせず利用できるのとは大きな違いである。
発行済みのリブラに対応する通貨バスケットの資産を常に保有しているようにすれば、為替レートが変動しても常に準備資産額を発行済みのリブラの残高以上であるように維持できる。しかし、このような操作を自動で行うには取引費用がかさむ。常にリブラの準備資産の通貨構成がリブラの本来の通貨構成と一致するように維持することはできない。
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