ビットコインなどの多くの暗号通貨では、通貨の価値は需給関係で決まっている。暗号通貨は、一定のルールに従って安定的に供給されるが、需要はさまざまな要因で変化するため、これらの暗号資産の価値は非常に変動が大きい。価値の変動が大きいことは、これらの暗号資産を通常の取引に使うためには大きな障害である。また、ビットコインなどの暗号資産の中心的な保有目的が「投機」になってしまった原因でもある。
これに対して、テザー、ユーロ・テザー (EURT)のように、価値を米ドルやユーロにリンクさせることで、価値を安定させるステーブルコイン(Stable Coin)と呼ばれる暗号通貨がある。リブラもその一種だ。テザーやユーロ・テザーが米ドルやユーロという単一の通貨に連動し、ベネズエラのマドゥーロ大統領がはじめたペトロ(Petro)は同国の石油や天然ガスなどの埋蔵資源が価値の源泉になっているのに対して、リブラはより価値の安定した通貨バスケットにリンクするように計画されている。
IMF(国際通貨基金)の報告書は、電子マネーが直面する危険性として、サイバー攻撃などを含むオペレーショナル・リスクの他に、流動性(Liquidity)リスク、倒産(Default)リスク、市場(Market)リスク、外国為替(Foreign exchange)リスク、の4つをあげ、①安全で流動性の高い資産に投資する、②発行額を常に準備資産額以下に保つ、③準備資産を他の資産と分離して管理する、④十分な資本を確保する、などによってこれらのリスクを抑制できるとしている(注)。リブラの計画にはこれらの措置が含まれている。
(注)“The Rise of Digital Money” IMF (July, 2019) IMF PUBLICATIONS FINTECH NOTES
「最後の貸し手」がいないことのリスク
リブラの発行量は協会が決めるのではなく、需要に応じて受動的に決まる。これは、ビットコインなどの暗号通貨では発行量が自動的に決められているのとは大きな違いである。リブラは利用者がリブラを購入することで増加し、リブラを円やドルなどに交換することで減少する。
リブラが発行される際には、利用者がリブラの発行額と同価値分だけドルや円などの通貨で支払いをするので準備資産が増加し、逆にリブラが払い戻されて利用者によるドルや円などの買い戻しが行われると、準備資産はリブラの減少と同額だけ減少する。こうして、常に準備資産が発行されているリブラと同額になるように設計されている。
発行されたリブラには利子が支払われず、協会は準備資産を運用して利子を得る。この利子による収入はまず、協会がリブラの運営を行う費用に充てられ、それを上回る利益は、リブラ協会に参加する初期投資家に当初の出資に対する配当としてリブラで支払われる。
準備資産は安定した通貨の銀行預金や政府証券といった、低リスクで流動性の高い資産で運用されるので低利回りだ。初期投資家に利益が分配されるのは、リブラが成功を収めて準備資産の規模が非常に大きくなってからのことになるだろう。
リブラ協会の設立メンバーになるためには、1000万ドル(約10億円)以上を拠出することが求められており、1000万ドルの拠出ごとに評議会で一票の投票権が与えられる(ただし権力の集中を防ぐために上限が設けられている)。このため、協会には設立メンバーによって相当額が「資本」として払い込まれるはずであり、何か問題が起こった場合には緩衝材になると期待できるだろう。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら