デジタル通貨「リブラ」が普及するとどうなるか 為替リスクあるが、いずれ法定通貨を駆逐も

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先行きに円高ドル安が予想される際に、米ドルでリブラを購入して、そのリブラを円に換えるという取引が短時間に大量に発生すると、為替レートの変動によって準備資産が大きく目減りすることもあり得るだろう。逆にリブラの準備資産が現実の為替レートを大きく動かして、経済に大きな影響を与えることも考えられる。リブラ協会は準備資産の説明の中で、リブラの価値を維持するために通貨構成を変えることがあるとしている。

リブラが通貨構成比を下げると予想された通貨は、リブラ協会が準備資産からその通貨を売却して他の通貨を購入することが明らかなので、大幅に下落するはずで、同様の取引を誘発する。リブラが価値を守ろうとすることが、通貨危機の引き金になったり、すでに起こってしまった通貨危機をさらに悪化させたりすることが起こりうるだろう。

リブラが「グローバルな通貨」となることを目指していることには注意すべきだ。リブラが果たして成功するのかという視点だけではなく、リブラの利用が拡大していったときに、経済にどのような影響を与えるかという点にも注意を払う必要がある。7月にフランスで開かれた「先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議」では、議長総括では「最高水準の金融規制を満たす必要がある」と述べられているなど、金融システムへの影響に強い懸念が示された。

為替による国際収支の調整ができなくなるおそれも

リブラは安価な海外送金手段となることなどから、急速に利用が拡大する可能性が十分にある。リブラの発行が需要に応じる受動的なものであって、リブラ協会に金融政策を行って経済をコントロールする意図がなくても、各国の経済は大きな影響を受けることがありうる。

特に、経済規模が小さいうえに、金融システムのインフラが貧弱な発展途上国では、リブラの利用が急速に広まって、国内でも自国通貨を使った取引が縮小する可能性がある。中央銀行が金融政策によって経済をコントロールしようとしても、リブラの影響が大きくて、政府が行う経済政策は大きな制約を受けることになるだろう。

先進諸国でも、リブラを使った決済が増えていけば、さまざまな商品やサービスの価格がリブラ建てで表示されるようになり、円で代金を支払う場合には、リブラ建ての価格に相当する円を支払うことになるだろう。円の価値がリブラの価値の基盤となっているのではなく、どれだけのリブラと交換できるかで円の価値が決まるというように、リブラと円の立場は逆転してしまうと考えられる。

こうした状況下では、いままで経済学が前提としてきたような為替レートによる国際収支の調整などの機能が働かず、経済は現在とは大きく異なった動きをするようになるはずだ。こうした問題を含めて、リブラのような新しい決済手段の登場にどう対応していくのかを国際的に議論していく必要があるだろう。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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