MMT論者は政府の管理能力を信用しすぎている 家計金融資産の取り崩しが進むとどうなるか

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政府が赤字を増やす必要があるという理論の前提は、需要不足で民間貯蓄が過剰であることだ(イラスト:Y.TATSU / PIXTA)

MMT(Modern Monetary Theory: 現代貨幣論)をめぐる論争は、議論がかみ合わないことも多い。MMTに関する説明はWEB上への投稿など断片的なものが多く、体系的に説明されたものが少なかったため、理論の前提や提唱者たちがどう考えているのかよく分からない部分が少なくなかったことが一因だ。

しかし、2019年になってMMTの提唱者であるビル・ミッチェル教授やランダル・レイ教授が書いたマクロ経済学の教科書(注)が刊行されるなど、体系的に説明された書籍が増えてきたため、全体像が理解しやすくなった。

MMTが前提としている制度や政策運営のルールと、現在多くの国々が採用している政策とは異なっているということが十分に理解されていないことも議論のすれ違いを生んでいる。

(注)Mitchell,William and Wray, L. Randall and Watts, Martin, “Macroeconomics”, Red Globe Press (2019)

許容できないような物価上昇が起きるか否か

財政赤字の持続可能性の議論では、通常、経済成長率が政府債務の金利を上回っていれば債務の対GDP(国内総生産)比が発散しない、というドーマー条件を満たしているかどうかが検討される。しかし、「自国通貨を持つ政府が財政破綻することはない」と主張するMMTでは、政府支出を賄うために国債を発行せず通貨発行で対応すればよいと考えるので、ドーマー条件を使った議論は適切ではない。

筆者は政府が市場で国債を発行して資金調達するというルールは、政府債務が際限なく増加していかないための歯止め、安全装置として利用されてきたと考えている。このため、MMTの主張の是非を検討するには、以前にも書いたように財政赤字を継続した場合に、許容できないような物価上昇が起きてしまうかどうかを議論すべきだと考える(東洋経済オンライン記事『MMTが間違った政策提言を導き出しているワケ「インフレは昂進しない」という前提の危うさ』ご参照)。

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