厚生年金および国民年金は、法律によって少なくとも 5 年に1度財政検証を行うこととなっており、今年はその年に当たる。検証結果は遠からず発表されるはずだが、前回の検証以上に厳しい結果になると予想されており、老後生活を維持するために自助努力がより強調されることになるだろう。
こうした中で、金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループの「高齢社会における資産形成・管理」報告書が公表された。報告書は、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上で収入のほとんどが公的年金)では家計収支は平均で月約5万円の赤字で、20年生きるとすれば1300万円、30年では2000万円の資金が必要になるとしている。さらに、介護や住宅のリフォームなどの出費の可能性や、今後退職金の縮小が続く可能性などを挙げて、用意すべき資金はより多くなることを指摘している。
高齢夫婦無職世帯の家計収支が5万円の赤字というのは家計調査(総務省統計局)の2017年の結果によるものだが、最新の2018年の結果によると、収支は平均で毎月4万1872円、年間約50万円の赤字だ。
これをベースにすると、20~30年分として必要な資金は1000~1500万円程度となって、金融庁の報告書の試算より減少するが、それでもかなりの資金を用意しなくてはならないことには変わりがない。
老後に必要な資金を貯蓄できている人は少ない
大きな問題は現在でも老後に必要となる資金を貯蓄できている人は少数派だということだ。2018年の高齢夫婦無職世帯の保有貯蓄額は平均で2344万円なので、老後を支えるために必要な貯蓄を保有しているように見える。しかし、身長や体重は平均値付近に多くの人が分布しているが、家計が保有する貯蓄額の平均は高額貯蓄者が引き上げている形で、多くの世帯の保有する貯蓄額は平均よりも少なくなっている。
図は2人以上世帯を世帯主の年代ごとに、貯蓄額の少ない世帯から順に並べて、同数の5つのグループに分け、各グループの平均を見たものだ。高齢の世帯は若い世帯に比べて貯蓄額が多く、世代別の保有貯蓄額の平均は20代では384万円だが、60代では2327万円となっている。しかし、真ん中のⅢ分位の世帯の平均貯蓄額は60代でも1528万円で、平均の2327万円を大きく下回っている。これは、最も保有貯蓄額が多い第Ⅴ分位の世帯の平均貯蓄額が6437万円となっていて、平均を押し上げているからだ。
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