MMT論者は政府の管理能力を信用しすぎている

家計金融資産の取り崩しが進むとどうなるか

家計が金融資産を増やそうとしているときに、誰も債務を増やそうとしなければ家計は目的を達することができないので、さらに消費支出を切り詰めて金融資産を増やそうとする。このため経済は需要不足となって低迷する。だが、政府が減税するなり支出を増やすなりして債務を増やせば、GDPが高い水準に戻り均衡する。

政府が提供する金融資産は通常は国債だが、MMTでは政府と中央銀行を一体と考えるので通貨(実際には民間銀行が日銀に保有する当座預金)だという違いがある。だが、狙っている経済効果には大差がない。金融緩和で株価を上昇させて家計金融資産を増やすというのも、家計の貯蓄意欲を満たすための政策と考えられるだろう。

こうした政策でしばらくの間は経済はフローの均衡を実現することができるが、時間が経てばストックにひずみがたまり、どこかで家計や企業の行動が大きく変化する恐れが大きい。米国のITバブルや、サブプライムローンによる住宅バブルも、金融緩和で株価や住宅価格を上昇させて家計資産を増やすことにより、消費の拡大を維持しようとする政策の結果起きたことだ。景気はしばらく好調だったが、資産価格の上昇を維持できなくなっていずれもバブルが崩壊し、経済が大混乱に陥った。

団塊世代がもっと高齢になれば取り崩しが始まる

資産価格を上昇させるのに比べれば、財政赤字を続ける方法は家計金融資産の増加が緩やかな分、持続性が高いだろう。しかし、家計貯蓄が黒字のまま維持されるとは限らない。貯蓄を増やすためには消費支出を可処分所得以下に維持し続けなくてはならないが、現在積み上げられている貯蓄の多くは、将来の老後生活に使うなどの目的で蓄えられているものだ。団塊世代が完全に引退して、もっと高齢になって医療や介護で貯蓄を取り崩すようになると、日本の家計部門全体でも、毎年の所得に比べて金融資産が積み上がる状態が止まり、取り崩しが進んでいくと考えられる。

日本の場合には人口の高齢化と減少が進むので、子孫のために残す資産は減少し、運用機会を求めて円建て資産から外貨建て資産へのシフトが今よりも活発になるだろう。円高のトレンドが弱まり円安に動き出せば、海外への資本逃避が加速するおそれもある。急速な円安が起こって輸入物価の上昇から消費者物価上昇率が大幅に高まっても、政府が増税や歳出削減を行うには国会の審議を経なくてはならず、対応が後手に回る恐れが大きい。

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