「村上春樹の英訳」で問われる"本物の英語力" 慶応、医学部の入試問題はどう変わったか

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この受賞演説を全部英訳するという場合なら、壁はthe wallで卵はthe eggと訳出しても構わないと思います。なぜなら、講演の前後の文脈がありますので、ここで出てくる「壁」と「卵」がそれぞれ何のメタファー(隠喩)なのかということは、読み手にはある程度明らかだからです。

しかし、この入試問題の場合はどうでしょうか? 出題者は壁をthe wall、卵をthe eggと訳出することを期待しているのでしょうか? 私の考えではそうではありません。「壁=強者/卵=弱者」というメタファーを押さえたうえで、英訳することが求められているのではないかと思います。

滋賀医大のように国公立大医学部のハイレベルな入試においては、「壁=強者/卵=弱者」というメタファーと両者の対比関係をきちんと理解したうえで、

壁:the strong /卵:the weak
*the+形容詞=形容詞+peopleを表す

と解答すべきであると指導しています。昔から大学入試で出題されている和文英訳問題においても、単なる「英借文」という対策だけでは歯が立たない、隠喩を英訳させるような問題が出題されているのです。

自由英作文問題も多様化し、進化している

現在の大学入試では、自由英作文問題の出題が増加しています。自由英作文問題の王道がエッセイ、ライティングであることは変わりません。しかし、自由英作文の入試問題も和文英訳問題と同様に進化し、多様化しています。

自由英作文のこれまでの出題形式をざっくり整理すると次のようになります。

(A)エッセイ・ライティング:
難関大に多い。自由英作文問題の主流。100語前後の語数指定が多いが、150語(一橋大・浜松医大など)、200語(東京外語大 )、300語(国際教養大)などの出題もある。
*一橋大は120〜150語。浜松医大は150語以上。東京外大と国際教養大は融合問題(後述)
(B)空所補充系:
さまざまなレベルの大学で出題される。示された英文や会話文に空所があり、その空所を文脈に沿った英文を書いて、全体として成立するようにすることを求める問題。
(C)イラスト・写真・資料(グラフなど)の説明・描写問題:
イラストや写真、あるいはグラフなどの資料を提示して、それを英語で説明させる問題。語数は100語前後が多い。東大が出題した、1枚の写真を見てそれについて英語で説明せよ、という自由英作文の問題には大喜利にも似た瞬発力が必要であった。
(D)要約系:
日本語の資料を英語で説明し、それに関して自分の意見を述べる(お茶の水女子大など)。あるいは、英語の文章あるいは会話文を英語で要約させる(熊本大、早稲田大学文学部・文化構想学部など)。
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