日本の「たばこ規制」なぜこうも歪んでいるのか

屋内分煙、屋外禁煙という異常な状況

──日本だけ取り残されている。

能動喫煙の健康被害を指摘したイギリスのドール氏は爵位を受けました。

片野田耕太(かたのだ こうた)/1970年大阪生まれ。東京大学法学部を卒業後、同大学院医学系研究科へ。2002年博士課程修了、2005年から旧国立がんセンター研究員となりたばこの健康影響とがんの統計の分野の研究に従事、2017年から現職。2016年の「たばこ白書」(厚生労働省)の編集責任者。(撮影:梅谷秀司)

平山先生も世界ではヒーロー的存在なのに、国内では知られていない。それどころか、「平山論文」をネット検索すると「嘘」なんかが一緒にヒットします。日本発の研究が世界中の仕組みを変えた希有な例なのに歯がゆいですね。それだけ、たばこ産業のプロパガンダが浸透しているのです。

受動喫煙は意思に基づかない喫煙なので、たばこ産業にとってはアキレス腱。「科学的に証明されていない」ので研究しましょうというのが能動喫煙問題のときからの常套手段で、自ら出資してたばこ研究の財団をつくる。当然、利益相反が問題になる。アメリカの会社が日本での受動喫煙の研究結果を歪曲して発表したこともあります。ちなみに、JTも1986年に喫煙科学研究財団を設立しています。

また、日本ではJTが分煙コンサルタントの飲食店派遣など「分煙で十分」という非科学的なプロモーションを続けています。

分煙には「働いている人」の視点がない

──分煙は問題が多いのに。

分煙でよしとするのは客の視点で、喫煙可能な場所で働いている人に想像が及んでいない。自民党の国会議員が「(がん患者は)そういう場所で無理して働かなくていい」と発言して問題になりましたが、じゃあ、そこで働いていい人はどういう人なのか。閉鎖空間での喫煙は人権の問題です。

──公共の場での分煙が規制のガラパゴス化を招いた。

家庭に喫煙者がいないと、ガス室のような飲食店を避ければ、たばことの接点は屋外に限られます。すると屋外でのたばこの苦情が増える。対応を迫られた自治体は、屋内禁煙が世界標準と知りながら、ポイ捨て禁止条例を制定、今や全国の自治体に広がっています。

たばこ産業とつながっている飲食店などの団体、生活衛生同業組合が目の敵にするのは屋内全面禁煙。JTも屋内の喫煙環境を守るため、マナーキャンペーンで屋外規制を後押し。流れを決定づけたのは、歩きたばこの火が幼児の目に入った事件です。結果、屋内は分煙、屋外は禁煙という世界でも類を見ない状況が生まれました。

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