「ライフ・シフト」著者が指摘する日本の課題 「父親の育休取得に日本は取り組むべきだ」

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『ライフ・シフト』が日本で人気になったのは、「これまでとは違う生き方を歩むことは可能なのだ」と説いているからではないか。多くの人が「違うやり方で働くことはできない」と諦めていたように感じる。

歴史的に見ても、社会が変化するときは、まず先駆者たちが変化を遂げ、企業や政府が後追いをするのが常だ。LBSで学ぶある日本人女性の夫は、日本の会社から育児休暇を取って一緒にロンドンで生活し、子どもの面倒を見ている。日本人としては非常に珍しく、彼はパイオニアといっていい。

今後は多くの男性が育休を積極的に取るようになるだろう。LBSの日本人女性の夫のように、そうした変化を周囲に示す存在がすでにいて、そこから大きな議論が生まれていくからだ。そしてパイオニアを褒めたたえ、育休を取れない企業を批判していくことが大事になる。

父親の育休取得を推進することが重要

──日本が早急に取り組まなければならない課題は何でしょう?

リンダ・グラットン(Lynda Gratton)/英ロンドン・ビジネススクール教授。人材論、組織論の世界的権威で、英タイムズ紙「世界のトップ15ビジネス思想家」などに選出。著書に『ワーク・シフト』など。2016年に英ロンドン・ビジネススクール経済学教授のアンドリュー・スコット氏との共著『ライフ・シフト』を刊行(撮影:尾形文繁)

キャリアを取るか、子どもを取るかという選択を暗に女性に対して迫っていることが、いちばんの問題といえる。

出生率が非常に低いのも、こういった選択を課してしまっているからだ。父親が長時間労働で家庭にめったにいない状況も、家族にとっては好ましくない。仕事が忙しすぎて地域コミュニティーなど社会に貢献できていないところにも問題がある。

女性が望んでいるのであれば、キャリアを築くことを後押しし、男性が父親としての役割をもっと担うことを後押しすべきだ。だからこそ、父親の育休取得を推進することが重要なのだ。企業の上層部に女性の割合を増やすための施策として、最も有効なのは「男性に育休を取らせること」というアメリカの調査もある。

父親と子どもがもっと一緒に過ごすようになれば、子どもだけでなく妻ともよりよい関係が築ける。家族としても安定するだろう。

──日本では高齢社会という課題もあります。

日本では現在、年金が大問題になっている。簡単な解決策はないからこそ、「受給を75歳まで遅らせるのか」「もし病気になったらどうするのか」といった問題を社会全体で広く議論していく必要がある。

今の日本は問いかけと対話を通して、理想の未来像を模索している最中だと思う。イギリスは政情不安によって何が起こるかわからない状態になっている。日本の大きなアドバンテージは、安定した政府があって、間違った選択を強制されないこと。政治が安定しているときこそ、未来像を考えて作り上げていける。

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