三井不動産が「賃貸ラボ」を本格展開する理由 スタートアップ支援に新しい手法

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昨年10月には、ここから生まれた抗がん剤開発企業「Delta-Fly Pharma」が東証マザーズへの上場を果たした。同年にはベンチャーキャピタルと共同で総額300億円のファンドを設立するなど、支援体制の一層の強化を図る。

実証実験の場を与えるという意味では、今回の「ラボ&オフィス」もその延長線上にある。実は今年2月、同社はすでに日本橋で生命科学分野での事業を手がけるスタートアップ向けのラボ「Beyond BioLAB TOKYO」を開設している。こちらは1つのラボを複数社でシェアする代わりに、実験機器や基本的なオフィス家具は備え付けだ。初期投資を抑えられるほか、資金調達や専門家からの助言も受けられる。

「不動産」を待ち受ける変化

三井だけではない。デベロッパー各社は競うようにスタートアップ支援に乗り出している。三菱地所は保有する大手町ビルをスタートアップ向けオフィス「Labシリーズ」にリノベーション。東急不動産もスタートアップ向けインキュベーション施設を展開する。森トラストは2017年10月、スタートアップ向けに総額200億円の出資枠を設定した。

働き方改革やテレワークの普及によって、各社の主力事業であるオフィスビル賃貸には変革を迫られている。立地や賃料だけでなく、生産性の向上やイノベーションの創発といった付加価値が求められる。スタートアップ支援を通じて新規ビジネスの創出を活発化させなければ、自社の物件やお膝元の地域が埋没してしまうかもしれない。あるデベロッパーの幹部は「GAFAなどのプラットフォーマーが、いつ不動産業を侵食してくるかわからない」と危機感を募らせる。

単なる「床貸し」で終わらせまいと、あの手この手で付加価値をつける不動産業界。業界トップが「ラボ」という新たな選択肢を提示したことで、スタートアップ支援の輪は一層広がりを見せそうだ。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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