三井不動産が「賃貸ラボ」を本格展開する理由 スタートアップ支援に新しい手法

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他方で、日本の不動産会社がラボを本格的に展開するのは今回が初めてだ。マンション、オフィス、商業施設、ホテル、物流施設に次ぐ6番目の開発の柱として、「スピード感を持って拡大していきたい」(三枝氏)。採算にしても、通常の物件と同等の利益水準を念頭に置く。

ただ、三井不動産がラボを開発する目的は、単なる賃料収入だけにとどまらないようだ。

「ハード」の時代は過ぎた

マンションやオフィスを開発する不動産会社としての印象が強い同社だが、実はある危機感を抱く。「ハード(建物)の時代は過ぎた。これからはスタートアップのコミュニティーを形成し、新しい産業を興すことがデベロッパーの使命」(北原義一副社長)。

足元では同社の業績は好調で、2019年3月期の純利益は1686億円と過去最高。だが人口減少や働き方改革の影響で、これまでの不動産ビジネスは早晩転換を迫られる。そこで同社は、ハコを作るハードだけでなく、コミュニティーの場を提供するソフトへと力を入れる。

左側がラボ、右側がオフィスエリア。共有の会議室やラウンジも備える予定だ(画像:三井不動産)

同社は以前からスタートアップ支援に取り組んできた。1997年に千葉・幕張でスタートアップ向けに空きスペースを格安で貸し出す「ベンチャーサポートセンター」を開設。2014年には同社が大規模開発を担った千葉・柏の葉で、起業家のアイデアを事業化につなげる「柏の葉オープンイノベーションラボ」をスタート。

その後も日本橋を中心とする首都圏8カ所でコワーキングスペース「31 VENTURES」、東京ミッドタウン日比谷にスタートアップ支援コミュニティ「BASE Q」を運営する。

とりわけ同社のお膝元である日本橋は江戸時代にかけて薬種問屋が集まり、現在も多くの製薬会社や業界団体がひしめく。こうした地の利を生かし、「シリコンバレーのライフサイエンス版(を日本橋に創りたい)」(三枝氏)という旗印のもと、2016年に生命化学分野のスタートアップや大企業、研究者などが集うコミュニティ「LINK-J」を設立した。

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