プリンスホテルがいま「会員制」に進出するワケ ユーザーとホテル、双方のメリットとは?

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また、筆者はやや意外に感じるが、会員制ホテルの市場規模は、年々成長しているという。

「会員制ホテルのマーケットは、リーマンショック後、平均すると年率5.2%くらいずつ成長している。アクティブシニア層を含めた底堅い需要が見込める状態にあり、かつ年収1500万円以上の層の潜在的需要も確認できることから、今後も着実な成長が見込めるマーケットであると判断した」(荒原氏)

具体的な数字を見るならば、「レジャー白書2018」(日本生産性本部)によれば、会員制ホテルの市場規模は、リーマンショック後の2009年には2550億円だったのが、2017年には3820億円にまで膨らんでいる。

会員制ホテルは、なぜこれほどの広がりを見せているのだろうか。

別荘のように維持の煩わしさがなく通年で利用が可能

荒原氏はその背景について、「3世代での宿泊を望む人が、相当数増えている」と分析する。つまり、祖父母が息子・娘夫婦、孫たちと一緒に別荘で過ごしたいが、別荘を購入すると維持が煩わしい。そこで、使いたいときにだけ手軽に使うことができ、しかも、施設の相互利用で、ほかのリゾート地の施設も使うことができる会員制ホテルの需要が伸びているというのは、納得のいく話だ。

これは、保養所を自前で維持するのが煩わしい法人のニーズにも合致する。

加えて、日本の宿泊施設はシーズンによって値段が跳ね上がるが、会員制であれば1年を通じて同じ値段での利用が可能であることや、最近はリゾート地に外国人客が増え、人気リゾート地ではトップシーズンに宿が取りづらくなっていることなども、会員制ホテルの伸びを後押ししていると考えられる。

では、一方の運営する事業者の側には、会員制ホテルにどのようなメリットがあるのだろうか。まず、大きいのは、会員権は相続可能な資産であることだ。つまり、事業者からすれば将来にわたる顧客の囲い込みができるということになる。この点は、これまで若年層の取り込みをやや苦手としてきたプリンスホテルにとっては、将来的に利用者の裾野を広げるという意味でも大きい。

次に、会員制ホテルは別荘のような使い方が想定されることから、四季を通じて長期利用が見込まれ、安定的なオペレーションが可能となる。「年間で見れば、パブリック形式のホテルのみでの運営に比べ、一部のホテルでは会員制を併用したほうが収益性は高くなると見込んでいる」(荒原氏)という。

とくに今回、施設の一部をバケーションクラブに転換する「軽井沢 浅間プリンスホテル」は、これまで主にゴルフ場利用者のためのホテルという位置付けで、春から秋までの季節営業を行っていたことから、大きな効果が見込まれる。

さらに、会員制ホテルはマーケティングの観点からも期待されるという。プリンスホテルは今年2月に新たな顧客データ管理システムを完成させた。このシステムに会員制ホテルの利用者の情報を加えることで、より精度の高いマーケティングが可能になる。

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