アメリカ為替政策報告書に見るトランプの不満 ドル高へのいらだちとユーロ圏への不信感
前回(2018年10月公表分)の報告書から中国に対する当たりの強さは鮮明になっている。冒頭の「Executive Summary」(論点整理)に「中国に関する財務省の結論」が別立てで設けられるようになった。2018年4月公表分までは「主要貿易相手国への財務省の評価」の中で総評が述べられていたが、この項目が「他の主要貿易相手国への財務省の評価」に変わり、「中国」と「中国以外」をはっきり区別する姿勢となった。今回もこれは不変である。
国別の分析を見ても、日本の1.5ページに対し中国は3ページと長い。ドイツもユーロ圏と合わせて2ページ程度だ。紙幅の大きさからも中国への問題意識が突出していることがよく分かる。
だが、経常収支だけに着目すれば中国はサービス(厳密には旅行)収支の赤字が貿易黒字を食い潰しつつあり、遠くない将来に経常赤字に転落するとの予想もあるくらいだ。例えばIMF(国際通貨基金)は2022年の赤字化を予想している。したがって、中国は「対外収支の不均衡」を指弾されるような立場ではないといえる。また、貿易黒字の多くは対米で記録されるものであって、それ以外の国に対してはそれほど突出していない。ゆえに、人民元相場が軟調になること自体は対外経済部門上、さほど不思議ではない。
しかし、米中という二国間関係の中でしか議論を展開できないトランプ政権はどうしても「黒字なのに元安傾向はけしからん」という思いに至りやすく、ややこしい状況にある。
トランプ政権が不快に思うユーロ圏の経常収支
今回、新たにイタリアとアイルランドが加わったことによって、ドイツを含む監視対象9カ国のうち3カ国がユーロ加盟国となった。いずれの国も、前述の監視リスト入り基準のうち、①と②を満たしたことによるものだ。
現状、対米貿易黒字の大きさで言えば、アイルランドは世界第5位、イタリアは7位、経常黒字(%、対GDP)でいえばアイルランドは9.2%、イタリアは2.5%である(すべて2018年10~12月期までの後方4四半期が対象)。今回の報告書ではこの2カ国が新たに対象となったが、ユーロ圏全体として経常収支が黒字体質に傾斜しているのは間違いない。
直感的には「ユーロ圏の経常黒字≒ドイツの経常黒字」とのイメージが持たれやすいだろう。実際、今回の報告書でも、ドイツの財政収支上の余裕をユーロ圏内でもっと活用することで内需ひいては輸入が拡大され、域内の経常収支も均衡に向かうとの指摘が行われている。だが、域内の黒字国は10年前の8カ国から12カ国に増えており、ドイツだけに責を帰するものとは言えない。
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