アメリカ為替政策報告書に見るトランプの不満 ドル高へのいらだちとユーロ圏への不信感

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ドルの強さにトランプ大統領は不満?(写真:ロイター/Thomas White)

「ドルは過大評価」との基本認識か

また、今回は「Foreign Exchange Markets」の項においてドル高への懸念とも取れる記述が見受けられた。同項は「2018年のドルは名目実効ベースで5%上昇し、2017年の下げを取り戻した」との評価で始まっている。基本的には米経済の相対的な強さとその結果としてのFRB(連邦準備制度理事会)の引き締め的な路線を反映した動きと整理されているようだが、「懸念すべきことに、実質実効ベース(REER)で見るとドルは過剰評価とIMFが判断している」とも述べており、現状のドル高がフェアとは考えていないようだ。

2018年を通じてドルのREERは4.5%上昇しているが、これによって「20年平均を8%上回った」と述べられている。このドル高が経常収支および貿易収支の不均衡をさらに悪化させているとの論を展開しており、暗に是正すべき対象としてのドル高が示唆されている。

ちなみに同項ではIMF分析を引用する格好で「経常黒字にもかかわらず過小評価」とされている通貨と「経常赤字にもかかわらず過大評価」とされている通貨が示されており、前者の筆頭格がドイツ(にとってのユーロ)、後者の筆頭格が米国のドルという位置付けになっている。円も前者のグループに入っているが「2018年、対ドルで上昇した唯一の通貨」としての言及もあり、それほど反感は買っていないようにも見える。

ちなみに、懸案の人民元については「概ね中立~やや過小評価」という印象であり、この辺りはトランプ政権として主張したい方向とはややずれているが、報告書内ではそうしたIMFの分析には特に言及はない。いずれにせよ、米財務省として「ドルは過大評価」という基本認識を抱いていそうな雰囲気は見て取れ、米国の通貨・金融政策ひいては為替市場の方向感を見定める上では重要な情報であると考えられる。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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